内容説明
広島,長崎に投下された原子爆弾によって命を奪われた人や,全世界の原子爆弾を憎悪する人々に捧げられた詩集.「ちちをかえせ ははをかえせ」で始まる「序」は,反核運動の旗幟としてひるがえる.自らの被爆体験をもとに,戦争や原爆に対する激しい抗議と平和への強い決意を訴える言葉の記念碑.(解説=大江健三郎,アーサー・ビナード)
目次
序┴八月六日┴死┴炎┴盲目┴仮繃帯所にて┴眼┴倉庫の記録┴としとったお母さん┴炎の季節┴ちいさい子┴墓標┴影┴友┴河のある風景┴朝┴微笑┴一九五〇年の八月六日┴夜┴巷にて┴ある婦人へ┴景観┴呼びかけ┴その日はいつか┴希い┴あとがき┴《解説1》『原爆詩集』を読みかえす(大江健三郎)┴《解説2》日本語をヒバクさせた人(アーサー・ビナード)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
292
新編集(2016年)による『原爆詩集』。解説を書いているのは大江健三郎とアーサー・ビナード。「ちちをかえせ」に始まる「序」は、反核平和のシンボルとして、あまりにも有名だが、これに続いて最初に置かれた「八月六日」が峠三吉の詩人としての原点である。そして以下の23篇は、いわば変奏曲のように被爆の諸相を詠ってゆく。中には1954年のビキニ環礁の水爆実験を詩人の直感から予見するかのような詩「炎の季節」があったりもする。もっとも、ビキニ環礁では1946年の7月に2度にわたって原爆実験が行われていたのだが。2018/03/30
新地学@児童書病発動中
122
打ちのめされる詩集。被爆した人々の苦しみが、詩人の研ぎ澄まされた言葉を通して伝わってくる。詩を通して原爆の恐怖を皮膚感覚で体験できると言ってもよい。物質的に恵まれて、だらけた生活を送っている私は、苦しみながら死んでいった人たちの怒りや悲しみを百分の一も理解できないのかもしれない。それでもこの詩集を読むことで、被爆者の痛みや胸のうちに少しでも近づけたことは、本当に良かったと思う。どの詩も素晴らしいが1篇選ぶなら「その日はいつか」。つつましく生きていた少女の命を一瞬にして奪った原爆の非情さを浮き彫りにする。2016/08/07
からかい上手の高木さんそっくりおじさん・寺
96
去年青空文庫で読んだのだが、今年岩波文庫になった。やっぱり本がいいじゃない。思えば『原爆詩集』って本の題名としては飾り気も無いのに完璧な気もする。この題名の本が文庫で、鞄やポケットに忍ばせられるって何か良い。誤解を恐れず不謹慎に言うが、カッコいい。中身はもっとカッコいい。峠三吉は怒っている。原爆を落とした者に怒っている。戦争に怒っている。再戦の気運に怒っている。時に誰かを抱き締める。老人、子供、女性。弱い立場の者を抱き締める。抱き締めて泣いて、怒っている。峠三吉はカッコいい。私も言う。にんげんをかえせ。2016/08/06
くぅ
51
言葉が出ない。突如、絶望の雲に覆われ、日常を奪われた人々の叫びと悲しみと恐怖の詩。同じ日本という国で同じ8月の空の下を過ごしているというのに。今の私たちは衣食住に恵まれ、夢を抱くこと叶えるチャンスがあり、大切な人と時間を共に出来る。この幸せに、恵まれた状況に、当たり前の日常にどれほど感謝出来ているだろうか。奪われることを考えたことがあるだろうか。今の暮らしの中でこの詩を読み、触れたからといって71年前の人々の苦しみや怒り悲しみを芯から理解することは到底出来ないと思う。けれど、感じること、→2016/08/21
★YUKA★
38
圧倒的な言葉の描写に、読んでいる間ただただ辛く悲しかった。読み終えた今も、物凄く悲しいし、憤っている。それでも、この「原爆詩集」読んで良かった。色んな人にもっともっと読まれて欲しいと思う。 2018/08/13