内容説明
幻想の世界と現実の世界を自由に行き来できる、世界でも希有な作家だった。
――南山 宏(作家・元SFマガジン編集長)
この人が歩んできた道の果てに、今の日本SFの輝きがある。
――池澤春菜(声優・SF愛好家)
日本SF第一世代として活躍した眉村卓が晩年の病床で書き継いでいた遺作。SF黎明期に起こったこと、そして未来はどうなるのか――
今から60年以上前、大学を卒業して会社員となった浦上映生は文芸の道を志し、SF同人誌「原始惑星」や創刊されたばかりの「月刊SF」に作品を投稿し始めた。サラリーマン生活を続け、大阪と東京を行き来しての執筆生活はどのように続いていったのか。
晩年の彼が闘病しつつ創作に向き合う日常や、病床で見る幻想や作中作を縦横無尽に交えながら、最期に至った“この世界の真実”とは。
これぞ最後の「眉村ワールド」!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ひらちゃん
77
眉村卓の遺作。病床で書き綴られた本作は、同じく病を患い残り少ない時間の中で書き続ける作家の話。薬の副作用か、現れる幻想と現実を行ったり来たり。回想するシーンはまさにご本人の過去だろう。星新一が名を変えて登場。だんだん意識が混濁して行くのか、架空の世界や、SF的出来事も。しかしその果ては何があるのか。本人も意識して書いていたのか、書くことで楽になれたのか。亡くなられる方の夢の中にずっといる、そんな感じだ。死を目の前にした人の心境に触れられた気がする。2020/12/11
keroppi
77
今日は、眉村卓さんの誕生日。昨年85歳で他界されたその眉村卓さんの最後の作品。三人称で描かれるが、明らかに眉村卓さん自身のことだ。死を目前にして、現実と幻想が入り混じる。過去の回想が偽名で蘇ってきたりするが、それぞれが誰のことなのか何となく分かったりする。SF的想像力が、死というものを捉え、飛躍していく。まさに、他の世界に飛翔する。本当に死を見据えたからこそ生まれ出た作品と言えるのだろう。#NetGalleyJP2020/10/20
kei302
63
星作品よりも眉村作品のほうが読みやすくてよく読んでいた。幻覚幻視はたぶん、ご自身の経験でしょう。自伝的な部分も興味深く読んだ。 「丘ホテル」の雰囲気に呑まれて書けなかった話がおもしろかった。最後は泣ける。2021/07/05
ソーダポップ
49
眉村卓さんの遺作の著書。主人公の浦上映生は(おそらく眉村卓氏自身)の伝記的作品であり不思議な日常を描がいています。主人公は、若かりし頃サラリーマン生活をしながら同人誌や雑誌にSF小説を投稿、そして本格的に作家として活動を行い、晩年には闘病しながら創作活動行い、病床で見る幻想(眉村卓氏自身抗がん剤や放射線治療、麻酔による譫妄状態になっていた)を縦横無尽に書かれている作品。ストーリーには星新一、平井和正、小松左京、筒井康隆などを思わせる人物も登場。SF小説、眉村卓さんのファンならば是非お勧めしたい作品です。2021/05/23
kawa
49
日本SF界・第一世代の大家だったという著者の84歳の遺作。取り立ててのSFファンではないが、人生の老いの終幕とSFが合体したような奇妙で魅力的な作品。もう少し先だと思うが、自分の終幕も現実とSF的幻覚?(本当に異次元が存在するかも…)を行ったり来たりのこんな雰囲気で逝けたら幸せかも知れない。2021/01/27