内容説明
数々のテロ事件を受け,フランスはいま政治と宗教,共生と分断のはざまで揺れている.国内第二の宗教であるイスラームとの関係をめぐり大統領選挙の主要争点ともなったライシテとは何か.憲法1条が謳う「ライックな(教育などが宗教から独立した,非宗教的な,世俗の)共和国」は何を擁護しうるのか.現代の難題を考える.
目次
目 次
序 章 共生と分断のはざまのライシテ
1 揺れる共和国──テロ事件と大統領選挙から
2 なぜ、いまライシテなのか
第1章 ライシテとは厳格な政教分離のことなのか
1 分離から承認へ
2 右傾化と治安の重視
3 同性婚反対運動とカトリック
4 キリスト生誕の模型とカト=ライシテの論理
5 託児所のヴェールとライシテの宗教化
第2章 宗教的マイノリティは迫害の憂き目に遭うのか
1 シャルリ・エブド事件からヴォルテールの『寛容論』へ
2 カラス事件とプロテスタント
3 ドレフュス事件とユダヤ人
4 スカーフ事件とムスリム
5 反復と差異
第3章 ライシテとイスラームは相容れないのか
1 ヴェールを被る理由、被らない理由
2 フェミニズムとポストコロニアリズム
3 「原理主義」と括られる潮流
4 「フランスのイスラーム化」か「イスラームのフランス化」か
5 フランスで開花するイスラームの可能性
終 章 ライシテは「フランス的例外」なのか
1 ライシテを「脱フランス化」する
2 日本のライシテ
参考文献
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
86
フランス革命後、宗教家と貴族が手を組み、民衆を圧迫していた過去を踏まえ、「政治と宗教は中立で独立してなければならない」という「ライシテ」の概念が誕生した。しかし、今はカトリックの思想が政治の陰に隠れ、フランスではマイノリティである宗教を抑圧するという事態になっている。よく、噛み砕かなければならない所もあったけど、宗教と政治との曖昧で実は密接な境目を考えるのに必要な「ライシテ」。そのあり方を考察せずにはいられない。そして基本、無宗教で通している日本のあり方をも考える事を最後に提示している構成が憎い。2018/05/10
skunk_c
30
刺激的な1冊。ライシテとはいわゆる「政教分離」の原則だが、これを考えるとしばしば分断的、あるいはステレオタイプな思考に陥る。著者は意図的かつ慎重にそれを避けながら、モンテスキュー、ドレフュス事件などカトリック対少数宗教の歴史を紐解き、現代最大の問題である在フランスムスリムについて、その多様な考えを紹介し、イスラームとフェミニズムの関係まで視野に入れてライシテの諸相を解き明かそうとする。特に終章ではライシテの基本要素を整理しつつ、日本の「政教分離」に切り込む。ライシテの訳案として「多文化共生」、腑に落ちた。2018/06/02
松本直哉
29
ムハンマドの諷刺画を授業に使ったため斬殺された教師が国葬にされて大統領が演説する様子を報道で見ると、これはライシテという名前の一種の宗教なのではないかと感じる。革命政府が「理性」を崇拝したように、いまの政府も「政教分離」に至上の価値を置くあまり、いかなる宗教的逸脱にも不寛容になっているのではなかろうか。すべての人の信仰の自由を認めると言いながら、それより上に共和国の統一の原理を優先させる。ムスリム女性のヴェールへのヒステリックな拒絶は、中世の異端カタリ派への激しい弾圧の延長線上にあるような気がしてならない2020/11/29
PAO
18
スカーフ問題がフランス伝統の「良心の自由の保障」に由来し、宗教的標章の着用が家族からの強制によるもので、その抑圧から「個人を守る」ことがライシテの国家的使命である反面、着用の自由を阻害するという事実は二律背反であり、どちらを優先すべきなのかは分離か調和かの選択により変わるのでしょう。翻って日本を見たとき「政教分離」ではブロックしきれない「宗教」に回収されない宗教的伝統の社会的適用範囲が徐々に拡大し許容され、それが「良心の自由」を阻害し始めている現状を鑑み「日本型ライシテ」を模索する必要があると感じました。2018/05/23
樋口佳之
16
スカーフ問題当事者とその周囲では大きな問題とは捉えられて無い。政治家のおかしな介入に注意なのかな。2018/06/22