内容説明
ときどき、こんな人がいるのです。山に入ったまま、帰って来られなくなってしまった人が──。仕事も家族も失い、絶望のうちに山を彷徨う男が見た恐ろしい幻影。少女の頃に恋した少年を山で失った女の、凄絶な復讐。山で見たおぞましい光景が狂わせた、幼なじみ三人の運命。死者の姿が見える男女の、不思議な出会い。闇と光、生と死、恐怖と陶酔が混じり合う、四つの幻想的な物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うりぼう
110
章立ての数字が旧の漢数字。でも、現代の話。語り部のせいか。平穏な人生が、突如崩壊し、故郷の山に登る。凡庸であっても心には、獣を飼い、キマイラと化す。出だしは、獏さん、そのもの。周囲に気ばかりを使う消極的な人生も、一度は勝負し、大きな負債を負い、山に還る。夏休みの前日は、最高の日。スタンド・バイ・ミーは、数十年を経て、再び山に入る。仲が良いほど、嫉妬も深い。シックス・センスは、話もできるが、自分自身は、見えず、山へと翔ぶ。百歳の老婆のもの語りは、僻地であるほど味わい深く、読者の魂は、体を離れぬばたまと化す。2010/10/14
mocha
106
山は、恐ろしい。木や草や虫や鳥や獣が、生き死にを繰り返す宇宙。死んだら魂を迎え入れてくれる。時に、生きたまま持って行かれることもある。山にまつわる不気味な4篇。とても感覚的で、「姥捨て」や民話に通じる日本的な怖さだ。山に行ったらこの作品を思い出しそうで怖い。2016/06/06
モルク
88
山に生まれ、そして山に取り込まれていった者たちの話。故郷を離れてもなお知らず知らず山に呼ばれてしまう。「たまゆら」と同じ世界観を持っている。あの世とこの世を結ぶ世界が山、そこに引き込まれて戻れなくなった人々が「四」の章で集約されていく。幻想的な世界に浸った。2019/06/18
ふう
62
マイナスの感想は書かないようにしてきたのですが…。読後すぐ書く気になれず1日おいて、頑張って?書いています。こういう作品にも少しは感じる美や切なさを感じることができず、根性で読み終わりました。恒川さんや宮部さんの作品が醸し出す雰囲気を期待していたのですが、それは読者の身勝手というものですね。2015/01/27
カムイ
53
山は怖ろしいところ、逢魔が蔓延る場所四人が囚われ幻惑され懊悩しあの世と導かれてしまう。あさのあつこの作品は初読み、【バッテリー】辺りは多くの人が読んでいるらしいが読んでいません。物語はホラーなのか怪談なのかそれも違うような気がする、一種怖さはあるのだが山に導かれそれにより包み込まれ戻れなくなるのだが死するのでなくそこに魂が顕在し漂うな雰囲気のする物語四話である、今まで読んできた怪談物とは違い浮遊感を感じながら読了した。2021/04/07