内容説明
第二次大戦下、義弟との不倫に疲れ仏印に渡ったゆき子は、農林研究所員富岡と出会う。様々な出来事を乗り越え、二人は屋久島へと辿り着いた――。終戦後、激動の日本で漂うように恋をした、男と女の物語。
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※本作品は電子書籍化にあたり、紙本に含まれていた次の要素を削除しております。
<解説 板垣 直子>
感想・レビュー
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ネムル
16
敗戦後の虚無文学。林芙美子の吹けば飛ぶよな虚無たい心象はこの作品に限らないが、『放浪記』なんかはアナーキーかぶれな奔放な文体が虚無癖を支えているのが魅力的だ。一方の本作では仏印でのカラフルな記憶が、戦後の鬱屈とした戦後の陰画になっているのが面白い。とはいえ、奔放さがないぶん虚無の度合いも強く、大変苦しい読書だった。成瀬の映画はすごく面白かったような気がするが。2021/04/01
conyTM3
10
桐野夏生さんの「ナニカアル」を読んで興味が湧いた林芙美子。 「放浪記」は読みづらくて途中リタイアしましたが、この作品はサクサク読めました。 敗戦の色が徐々に見え始めた頃、仕事で渡った仏印(フランス領インドシナ)で出会った男女が戦中戦後の特殊な状況下で空虚な心を埋める術として恋愛するというお話。 浮気性のしょーもない男としょーもない女がグダグダやってて途中イラつきましたが、最後の方になるとお互いのしつこさに逞しさすら覚えました。 市が提供を始めた電子図書館を初利用。2024/01/18
ochatomo
6
高峰秀子さん主演の映画を観て大泣きした原作 戦中戦後の混乱を舞台に男の浮気な心情とすがる女の哀切が延々描かれ、人生に意味はないことを突きつける 著者が従軍記者として見聞したであろう南方の自然描写が彩りとなり、引用文学による格調もあって、板垣直子氏解説のとおり「芸術感情に厚みがあって、読み終わると強い迫力に捉えられる」 初出1949年「風雪」連載 底本1955年 改版2017刊 カバー装画てぬぐい“キンモクセイづくし”(かまわぬ)2018/02/28
バーベナ
3
まだ敗戦の兆しもなく、豊かなベトナム:ダラットで出会ったゆき子と富岡。終戦後、たくましく生きていくのかと思いきや富岡と再会してから、流浪するゆき子。彼のどこがそんなによいのよ~と思いながらも、ゆき子が望んでいることなのだから・・と切なく思う。2018/01/08
みゃんぱ
2
戦中の仏印から戦後日本へ、引き揚げてきた男女の関係性の心境や関係性の変化を抉り出すように描く、凄味のある一冊。手段を選ばず生き、冨岡への執着が捨てられないゆき子、女への性的欲望を利用してしか生への欲望を喚起し得ない冨岡。読者として好きになれない利己的な2人だが、彼らの心理状態や健康状態が、文章から滲み出るような立体感のある筆致は流石としか言いようがない。当時の仏印、池袋、伊香保、そして屋久島と言った場所の匂いまでもが伝わってくる描写も楽しんだ。2022/08/11