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内容説明
時間は抽象なので、私たちが時間を認識するとき、なにかに「見立て」るしかない。この「見立て」つまりメタファーを分析することで、“時間”を具体的に意識化することができる。近代において最も強固な「見立て」は〈時は金なり〉のメタファー。コーパスや、具体的なテキスト(「吾輩は猫である」「モモ」等)を探り、私たちが縛られているさまざまな時間のメタファーを明らかにした上で、新しい時間概念(「時間は命」)を模索したい。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
SOHSA
37
《図書館本》「時間」の概念に対する言語学からのアプローチによる1冊。全体として論理は明解で読みやすく、著者の言説と主張は概ね理解できる。何よりメタファーによる時間概念の読み解きという手法は興味深い。一方で同じことの繰り返しと受け取れるところもいくつがあり、少々、じれったい感が残る。最終的には時間のメタファーとして「金」から「命」への転換を提言して終わるが「時間」がどういうものかということと、どうあるぺきかということは本来的に別物であり、唐突な印象が残った。ともあれ著者のチャレンジには拍手を贈りたい。2017/06/01
torami
25
時間という抽象概念を捉えるために、時間にまつわる様々なメタファーを読み解いている。メタファーの説明はかなり難しく、正直あまり理解できなかった。 しかし、時間とお金に類似性があると説明する第四章第五章は、『モモ』を材にとっており面白く読めた。 資本主義下で、私たちは多かれ少なかれ時間をお金に換えて生活している。そこでは時間を効率よく使うことが美徳とされている。 モモはその美徳を疑うことで人間性を守り通した。彼女は人生を豊かにする方法を知るよきアドバイザーだ。折りに触れて彼女に会いに行くことにしようと思う。2019/04/29
M
17
時間の在り方について、ことばの実情を表す、類似性に基づく比喩であるメタファーに注目すると時間の構造はお金の構造に類似している。日本に太陽暦、時間ということばが翻訳され、導入されたのは1873年だが、時間以前の和語としての「とき」に長年の歴史があったため、当時の語義数では時間を上回っていた。時間のことばとともに計量思考の概念も導入され、時間の数字表現が意識され始めた。それ以前の日本人では四季よりも長い一年を見定めるのに何に着目したのか、また、近代の時間はアラビア数字による時間意識の定着によって生まれたのか。2020/03/10
ペペロニ
16
やっぱり言語学って面白い…と思わせてくれる本。「時間はお金」のメタファーに世界は鷲掴みにされてしまっている。そうではなくて、「時間は命」のように大切にしなければならない。時間の使い方からこれからの生き方に至るまで考えを巡らそう。2018/04/06
袖崎いたる
13
さわやかな夏の言語SFという印象を読後感として挙げてもいい。とはいえ非学問的な意味でのフィクショナルさではない。コロケーションとコーパスとを参照してふつうに流通している言い方を腑分けしていくスタンスは、言語学がしばしば呈するとっつきにくさはなく、エンデの『モモ』などを参照して時間に込められている価値意識の摘出は実に爽やか。そしてその価値意識こそがメタファーなのであり、隠然と働いている生を規定する価値なのだ。著者が批判したいのはその価値。メタファーについて考えるための〝建設的な〟概念も散りばめられている。2017/08/16