内容説明
映画保存のエキスパートが明かす、《物質》面から捉えた映画の新しい魅惑
過去の文化遺産を保存・運用する「アーカイブ」。その仕事は現在ますます注目を集め、21世紀は「アーカイブの時代」とも呼べるでしょう。本書は、そのアーカイブを映画という分野で担ってきた著者による、「物質としての映画」にまつわるエッセイ集です。曰く、映画フィルムは牛からできている。映画フィルムは正しく救わないと爆発してしまう。映画フィルムはしばしば遠い旅に出てしまう。そんな不思議なお騒がせ者だけれど、フィルムの映画こそ未来に残すべき本物の「映画」なのです。
本書では、そんな映画の赤裸々な姿が、土地や歴史を縦横無尽に行き来しながら語られます。そして、映画アーカイブの基本思想は「すべての映画は平等である」。小津安二郎も成人映画も区別なく、7万本以上の映画が快適な環境で未来へ引き継がれてゆく映画アーカイブの収蔵庫は、そのような映画への新たな視座を生み出す場所でもあります。
巻末には蓮實重彦氏との対談を収録!
カバー写真:中馬聰
目次
■はじめに 生まれたからには、すべて映画は映画
■第一章 なぜ映画を守るのか
■私たち”の映画保存に向かって 対談:石原香絵
■第二章 フィルム・アーカイブの眼
■私のシネマテーク修業日記 ノンフィルムの巻
■第三章 映画保存の周辺
■シネマテークの淫靡さをめぐって 対談:蓮實重彦
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
vaudou
10
《物体》としての映画保存に端を発し、いかにして映画記憶を後世に伝えていくかという思考をめぐらす著者の姿勢は尊い。誰かがやらねば火は消えてしまう。あくまで物として平等に映画に触れる、その唯物的な目線は、「面白orつまらない」の評価軸を超克した立場の表明となる。2018/04/13
garth
6
なんの映画になりたい? http://garth.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/post-6414.html2016/09/29
imagine
4
映画を保存し、後世に残してゆくこと。それは表紙の写真が雄弁に物語る通り、「物体(フィルム)」を大量に扱うこと。かつてフィルム表面の乳剤に動物由来のゼラチンが使われたため、コダック社が牛を飼っていたという逸話には驚いた。登場する固有名詞の大半ははじめて聞くものだったが、アクティブにアーカイブという仕事に関わる著者には敬服の念を抱きました。2017/02/28
☆ツイテル☆
3
フライヤー2022/01/12
の
3
東京国立近代美術館フィルムセンターの研究員が映画を「物質」面で捉える評論・対談集。映画フィルムの保存・管理は、デジタルコピーや配信が当たり前になった今ではないがしろにされがちで、それは映画のポスターや映画館も同じ。既に失われたと思っていた作品が海外で発見されるニュースは喜ばしいが、その裏にはテープが再利用(上書き)され永遠に失われてしまった映像作品もある。映画がニュースも兼ねていた時代の風俗を撮影した資料は、特にその傾向があるとのこと。重要文化財にも指定される、映画は立派な芸術作品だと思い知らされた。2016/12/29