内容説明
昔の美貌を残しながらも無表情、徹底して人とのかかわりを好まなかった藍子叔母。謎に満ちた叔母の人生に、わたしは物書きとしての興味をかきたてられた。叔母に届いた手紙と、ある男の手記。調べていくうちに、若き日の叔母の恋人は、ゾルゲ事件で投獄されていたことを知る。戦中から戦後、そして現在へと、脈々と続く連鎖の不思議。昭和という時代に翻弄されながらも、気丈に愛を貫き通した藍子――。『症例A』の多島斗志之が描き切った、渾身の純愛小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はらぺこ
61
裏表紙にゾルゲ事件がどうこうって書いてるから、難しくてしんどい内容かなぁと思ったけど最後まで楽しめた。戦後の混乱期って何でも有りやなとは思った。2012/12/15
おかだ
51
なかなか読み応えがあった。ひっそりと孤独に生き、孤独に死んでいった無口で無愛想な叔母。死後30年が過ぎ、ひょんな事から彼女の過去を探る事になるが、そこにはイメージと全く違う若かりし叔母の姿があった…。ゾルゲ事件を全然知らなくて、こりゃハードルが高いかなと身構えたのだけど、事件周辺の人々が濁流にのまれていく様には否応なく引き込まれた。彼女がどんな気持ちで生きてきたのか、特に晩年の心境を思うと…辛い。最後の手紙がとても良い。沈むしかない物語の中でキラキラと前向きで未来が溢れていて…そのコントラストにやられた。2018/05/21
鐵太郎
15
結果がわかっている今の視点で、彼らを愚かとか卑劣とか言うことは、たやすい。では、その理想のために死んでいった人のことを、思っていた人は、どう考えればいいのか。そして、自分たちの仕事に疑問を持ち、嫌々ながらもこれが正しいんだと自分に思い聞かせ、やるべき事をやろうとした人のことは、どう考えればいいのか。単なる恋愛小説ならごめんだが、歴史に対するしっかりした思いがあり、時折りきらめくような言葉が光るこの本は、ちょっと気に入りました。 2010/07/18
雨猫
14
再読。多島さんの作品で1番好き。孤独に生き孤独に死んだと思っていた藍子叔母の死後30年経ってから知った過去。そこには天真爛漫だった叔母がいた。なぜ叔母は後年人を避けるように生きたのか気になりグイグイ読ませる。叔母の過去を調べるうちに父の秘密も明らかになる。戦前戦中の史実を織り交ぜその時代に弄ばれた人々の悲しい運命に涙。やはり多島さんの文章はいい。もっと読みたかった。惜しい作家を亡くした。☆5つ2015/06/03
山田太郎
14
ちょっと地味だけど、いい。しかし、この作者は見つかったのか、結局。2010/09/01