内容説明
“人間を描く天才”チェーホフの短篇13をロシア文学研究者であり名エッセイストの沼野充義氏が豊かな言葉を駆使して新しく訳した珠玉の作品集。個性豊かな登場人物が濃密なドラマを繰り広げる。今だからこそ読みたいロシア文豪の名作短篇。[目次]●女たち(かわいい/ジーノチカ/いたずら/中二階のある家 ある画家の話)●子供たち(おおきなかぶ/ワーニカ/牡蠣/おでこの白い子犬)●死について(役人の死/せつない/ねむい/ロスチャイルドのバイオリン)●愛について(奥さんは子犬を連れて)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
112
短編や戯曲で知られる著者の作品集。翻訳者による解説が一篇ずつ丁寧に語られ、読みどころや著者の意図など物語を味わうのを手助けしてくれるのも良かった。チェーホフの魅力を引き出している本だと思う。話を読んで目を引いたのは人の描き方。先入観のなさそうな視点で気取らず明け透けに描写され、単純なようでその背面にある人の心の複雑なものも感じさせる。どことなく感情面の強さも垣間見えた。またユーモラスさやもの哀しい情緒的な表現も印象的。「ナッちゃん、好きだよ!」と「うゎおう!」が頭に残った。ロシア文学をもっと味わいたい。2020/08/21
らぱん
71
①沼野充義が選んだ13編の短編でそれぞれに付いた解説も良く、にわかチェーホフはまりの自分には勉強になった。訳の文体は現代的であり、極端な例では「キモい」などと口にする人物がおり、その軽さに驚いたが同時に新鮮で慣れてくると可笑しさを味わうのには中々良いのではないかと思えてきた。 登場人物のほとんどが、豆腐の角に頭をぶつけて死んじまうようなヤツらで時々本当に死んでしまったりするのだが、そんなことをニヤニヤ笑っていると、いつの間にか自分の頭にコブがあり、どうやら豆腐の角にぶつけたようだと気が付くことになる。②↓2020/01/20
AICHAN
64
図書館本。解説付きチェーホフの短編集。「かわいい」「ジーノチカ」「いたずら」「中二階のある家」「おおきなかぶ」「ワーニカ」「牡蠣」「おでこの白い子犬」「役人の死」「せつない」「ねむい」「ロスチャイルドのヴァイオリン」「奥さんは子犬を連れて」を収録。どの短編も深い思惑も感じられたが軽妙洒脱で読みやすい。新訳のせいもあるだろう。「キモい」なんて表現も出てきて驚いた。各短編のあとに訳者がしゃしゃり出てきて長々と解説を加えるという面白い趣向。おかげで各短編の成り立ちやチェーホフの人となりなどがよくわかった。2021/12/21
Mina
55
女たち 子供たち 死について 愛についての13篇。残念な結末の不条理な作品も多いのですが、とてもコミカルで嫌味がないところが面白い。そして、1話ごとに書かれている解説もエピソード満載で かなり楽しい。耳が長く頭が「かぶ」の息子を 公爵婦人や将軍、お金持ちの商人の力を借りて「世の中」に引っ張り出してやる『おおきなかぶ』は、お馴染みロシア民話のパロディ。この単純明快な風刺が好きです。自分にはどの話もハズレなしでした。図書館本ですが、これは手元に置いて読み返したい1冊。2015/01/29
あじ
44
『この新訳で目指したのは、精確さをとことん追及しながらも「これがチェーホフだ!」と、作家の魅力がずばっと現代の読者に通じるようなテキストを作ることだった』訳者が語気を強めているように、チェーホフの意図をミリ単位で探った翻訳の調整が秀逸。これまで日本で踏襲してきた短編タイトル、例えば【可愛い女】を改変し訳者は【かわいい】とした。なぜ“女”を取ったのかについて、精緻な説明がなされており一読三嘆であります。ユーモアとペーソス、そしてアイロニーに富んだチェーホフの短編に幕が下りる度、訳者の明解な解説があります。2018/11/23