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内容説明
「人はなぜ傷つくのか? それは、人が人になるためだ」。ブラック・ジャックを始めとするマンガ、「ゴジラ」を始めとする映画、テレビドラマに見られる「ブラックな」キャラクターなど、日本文化固有の「傷」の表象の彼方に、文化の固有性を超えた普遍的な人間の実存の表象を見る。ユング、河合隼雄の業績を継ぐ、ユング派心理学の意欲作。(講談社選書メチエ)
目次
序章 傷を生きる精神学
第1章 異形の自己
第2章 癒されぬ個性化
第3章 純粋にして強靭な意志―『Happy!』より
第4章 黒い超自我
第5章 「傷」が呼び寄せるもの―『カフーを待ちわびて』より
第6章 異類としてのアンドロイド―“さようなら”より
終章 「原傷―黒い聖痕」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サイバーパンツ
10
ユングが言うところの「個性化の過程」は、存在の裂けるほど深い傷(原傷)を負うことから始まる。深い傷=「黒い聖痕」を受ければ、怨みの心が投影の機能を通して悪≒敵を生み出すが、黒い聖痕を抱えながらでも傷を背負い切れば、自分だけの異能を得ることができる。たとえ黒い超自我を抱えることになろうと、深い傷からは「原悲」と呼ばれる喪失が生まれ、そこから祈りのアニマが生まれる。原爆という大きな傷による祈りが、ブラックジャックを筆頭とした日本で好まれる異形の自己を抱える欠落したヒーローを生んだという話は村上隆みたいだ。2019/05/09
釈聴音
2
三位一体に「悪魔」を加えた「四位一体」という発想が興味深い。ヨナスの「神の完全性」に関する議論を想起させる。2013/09/03
星菫
1
均一化されているように見える日本人の方が、実はそれぞれ多種多様の「傷」を持っている、という説は新鮮でした。もっと具体的な症例(コミックや映画ではなく)を載せて欲しいとも思ったのですが、やはり自分の傷と向き合うには、自分のやり方しかないのでしょう。読了してお終い、というわけではなく考え続けることになりそうです。ところで、重箱の隅ですが、「髪のみで全身を纏い一心に祈っている」のはスターシャではなくテレサでは?2013/07/26
れうしあ
0
傷を負ったまま生きるということ、傷を受けたところから個性化の過程が始まる。著者はキリスト教を土台とした西洋とその土台のない日本とを比較し、それ故に日本人にとっては傷が土台となると言う。その生き方をする者をDisfigured Heroと呼び、代表例としてブラックジャックを上げている。その元型は日本の物語の典型のようである。が、どうも中二臭く、いい歳してサブカルに目覚めたイタいおっさんがひとり興奮して突っ走ってる感は否めない。2019/08/03
山名
0
日本人の深層心理を探る為に、神話や物語、果ては漫画、テレビドラマを取り扱っているという事をしっかりと自分の中で落とし込んでいないと、一体筆者が何をやっているのか分からなくなる。西洋のカリスマ的なヒーロー型が日本の創作において(無意識に)避けられてきたとして、日本の潜在的な、日本人が好んできた人間像として、「傷を生きる英雄」を設定する(exブラックジャック)。傷は解消され得ない。これが暗示されているように多くの物語は喪失感で幕を閉じる(ex竹取物語、鶴の恩返し)。その象徴として日本人の「あはれ」に注目する。2016/09/10