内容説明
1960年代、高度経済成長期の到来。この急激な社会変化に作家の想像力はどう応答したのか。拡大しながら刻一刻と廃墟へ向かう東京で紡がれてゆく膨大な物語を、都市、満州、廃墟、過去・現在・未来の断絶、失踪、夢等の主要モチーフを手がかりに、人気政治学者が読み解く。
目次
第1章 夢の不安
第2章 都市の夢語り
第3章 穴だらけの街
第4章 もうひとつの歴史
第5章 まぼろしの共和国
第6章 忠誠のアレゴリー
第7章 断絶した未来
第8章 海中のユートピア
第9章 故郷としての荒野
第10章 ある国家の経験
第11章 砂の領域
第12章 窓から覗く眼
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
33
三島は戦後と共に生き歴史が描きやすいのに対して、安部は無国籍的であり、その点村上春樹と似ています。しかし、村上が時代の痕跡を残しているのに対して、安部はその痕跡さえも無い。そのことが安部を時代に位置付けられない、批評し辛い作家として規定しているようにみえます。著者は政治学者であり、自身にとって最も向いていない作家を選んでいるようにしかみえません。その文脈依存的な読み方をするはずの属性から離れて、取替可能な都市の風景に欲望を見出すことに「都市と夢」という安部と著者のモチーフが重なっているようにみえます。2021/07/27
ハチアカデミー
10
安部公房は満洲に何の夢を見たか。『燃えつきた地図』『第四間氷期』『榎本武揚』(←何度読んでも呑み込めない…)を中心に、公房の都市へのまなざしと、そこにどんな空白=夢を見出したのかを解き明かす。先行研究へ目配せしつつも、各論で終わらせるのではなく全体としてまとまりがある。「夢」から「手」へ至る考察を堪能。作家が語るのではなく、「都市」や「村」といった環境が作家を語らせたのかとの感を得る。「満洲」へと至る公房の原風景考察の書でもあった。1960年という時代考察も挟まれるが、もっと盛りこんでも良かったか。2013/08/05
Haruka Fukuhara
5
安部公房と江藤淳との対比が面白かった。 >常に歴史は、それを書く者の生きた時代の関心に応じて書きかえられる。そうして生み出された、現代における「伝統」を自明のものとして受け入れるならば、人は「現代」の歴史のうちに安住することができるだろう。しかし、捨てられた過去の断片に目を向けはじめると、「現代」から見た歴史によってはくみつくせない、過去の異質性がまざまざと迫ってくる。そして反対に未来もまた、「現在」の延長線上に想像できるものに行きつくとはかぎらない、未知のものであることが実感されるだろう。(114頁)2017/02/23
Haruka Fukuhara
4
返す前にざっと読み直し。色々といいこと言ってる気がする。やっぱり頭いい人だなあ。次は「榎本武揚」読んでみよう。2017/03/06
denz
3
安部公房は、ずいぶん昔に『砂の女』と『榎本武揚』を読んだきりで、たぶん他には何も読んでない。本書を読むと、そのことが悔やまれる。信じていたものが突然無意味になり非難にさらされる、失踪者は都市の中に消えていく、唐突の死、他者からの逃走、そうした先の見えない社会状況によりそい、特定の共同体への帰属を離れた個人のつながりを地道に探っていくさまを安部作品の中にみつけていく。しばらくしたら、また味わいたい作品。2012/03/03