内容説明
歴史に埋もれた江戸時代の町民自治の顛末
新潟は、北前船をはじめとする大型船の寄港地として繁栄したが、不況と天候不順が続き、不景気のどん底にあえいでいた。しかし、長岡藩は主要な財源である新潟の町からの過重な御用金の取り立てを要求。それに一部の特権商人は、その御用金の上前をはねていた。
憤る人々を、なんとか収めようとした呉服商涌井藤四郎らの努力も実らず、明和5年(1768年)、町民は決起し新潟は町民の手で治められることになった。その先頭に立った藤四郎には、亡き師竹内式部に国学を学んでおり、大いなる志があった。町役人を町民の公選にすることなどを盛り込んだ嘆願書を長岡藩に提出したのだったが……。
わずか2ヶ月とはいえ、パリ・コミューンの百年前に行われた新潟の町民自治。この作品は、その“新潟湊騒動”の顛末を、藤四郎と彼を慕う芸妓お雪との恋模様を絡ませながら描いていく。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びす男
64
仕事で関わった「明和義人」の話に興味が湧いたので読んでみた。湊町である新潟・古町を舞台に、主人公の涌井藤四郎や岩船屋佐次右衛門、芸妓のお雪など市井の人々が躍動する。江戸時代中期に、2ヶ月にわたって町民が政道の主導権を握り、自治政治を行った明和騒動。当時の活気ある様子を読みやすく、爽やかに描ききっている。強きをくじき、弱きをたすける、新潟には確かにそんな気概がある。赴任して2ヶ月。風通しが良くてどこか気高いところもある、この町がますます好きになった。2015/08/30
藤枝梅安
19
明治維新の百年前、明和五年の、いわゆる「新潟湊騒動」の主導者・涌井藤四郎を主役に据えた中編小説。花街の芸妓・雪との心のふれあいを交え、藤四郎の死までをストレートに書いた作品。解説を見たら、新潟で上演されるミュージカルの原作としての書き下ろしとのこと。事件のアウトラインを急ぎ足でたどる感じがしたのは、そういう理由だったか。「パリ・コミューン」との比較は無理があるかな。もっとこの事件の背景や推移を丁寧に追ってほしかった。たとえば、飯嶋和一さんがこれを題材にしたら5倍ぐらいの分量になると思う。2012/02/28
ぎん
10
7年ほど新潟に住んだので愛宕神社の明和義人祭なる祭が古町でひっそり(?)と行われていたのは知っていたが、その由来がようやく理解できた。作者が新潟出身とのことゆえか、新潟弁と新潟の風土が美しくも悲しい物語をうまく引き立てている。新潟市はこんな過去の偉人をもっとアピールすればいいのに、もったいないよ。2016/11/28
耶麻
1
新潟でこのような話があったことを全く知らず、非常に面白く読みました。2014/11/16
Daisuke Okamoto
1
本作は、「わしはこんな所に来とうはなかった!」で有名な天地人の原作者、火坂雅志による歴史小説。 江戸時代中期の新潟町民が、藩政に抵抗して、約2ヵ月間、町民自治を行った事件(新潟明和騒動)について描かれた作品。 騒動に至った経緯や、騒動自体の内容については、細かく描写されていたが、騒動後の自治については、その記述が少なく、少し物足りなさを感じた。 地味ではあるが、北方謙三の楊令伝のように、内政面に関する描写も充実させて欲しかった。2012/02/11