内容説明
谷崎賞受賞作『槿』をはじめ、70年代以後の現代文学を先導する、古井由吉の、既にして大いなる才幹を予告する初期秀作群、「雪の下の蟹」「子供たちの道」「男たちの円居」を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yumiha
21
『雪の下の蟹』の「ダラな」「行ってきまし」「きのどくなあ」は、故郷の方言を懐かしく思う。『男たちの円居』は、「空腹の獣」という言葉に立ち止まってしまった。生き物である以上、食べることから逃れられず、飢えに対して本能的な脅えがつきまとう。「いいゾォ」「ほおいほおい」「エイ オウ」という呼び声によって、人間が「獣」(しかも肉食獣だわ)であることをあからさまにしてしまう。取り澄まして過ごせる日常は後退する。そのせめぎ合いを抉り出している作品だと思った。2015/06/22
zumi
17
通算で5回くらい読んだだろうか。何度読んでも面白いですね。どの短篇も、明らかに矛盾した言葉の使い方、あるものに対してそれと反対のものを結びつける古井由吉の言葉のあり方が際立っている。「静かな物狂わしさ」... 言葉の齟齬が人間を狂わせ、周囲の環境に翻弄される。境界は少しずつ溶け合い、人間は微妙に獣じみてくる。矛盾したものが同居する軋轢と閉塞感... 雪明かりの乱反射は、物事をくっきり見せるのではなく、むしろ覆い隠すであろう。「雪の下の蟹」「男たちの円居」は最高級の作品です。2014/06/20
しゅん
11
初期の短篇を散策。二人の戦争孤児に対する10歳の少女の「母」的な視線を書き連なる「子供たちの道」が印象深い。特に少女が「母」から「子」に反転する最後のセリフには体がぶるっと震えた。全体的に音への意識が強い小説家だなと改めて思う。2019/06/24
Cell 44
8
どの作品も本当に素晴らしかったです。登場人物に共感するのでなく、文章に共感しました。群の中の個としてまどろんでいる……意識というものの危うさ。ようやく、読書の面白さがこれで分かり始めた気がします。胃に染み入るような文章。体が感覚の中に没していくような心地の文章。とても魅惑的でした。2011/07/07
『壊す人』
5
これは傑作。「こんなにいい作品なのだから多くの人に読んでもらうため、安く出版しよう」っていう発想で動いてくれる出版社がどこかにないのかなあ…2014/11/17