内容説明
妻子と引き裂かれ、越後へ追放された善信。与えられた住まいは獄舎より粗末だった。雨が漏り、雪が吹き込み、風に揺れる一棟。しかし、全ての人が救われる、仏の大慈悲を伝える師弟は幸せだった。真の幸福は、地位、名誉、財産などの多少とは関係ないのだ。越後の悪代官、源氏の武将、親鸞を生涯の敵と怨む山伏、大酒飲みで凶暴な大工…、仏の教えに触れて、皆、生まれ変わっていく。関東布教が花開く六十歳頃までを描いた吉川『親鸞』完結編。
著者等紹介
吉川英治[ヨシカワエイジ]
明治25年(1892)~昭和37年(1962)。神奈川県生まれ。本名、英次。家運の傾きにより、11歳で小学校を中退。さまざまな職を転々とし、社会の辛酸を舐める。18歳、苦学を覚悟して上京。29歳、東京毎夕新聞社に入社。翌年、初の新聞小説『親鸞記』の連載を開始。31歳、関東大震災に遭遇したことをきっかけに、作家活動に専念。『剣難女難』『鳴門秘帖』などで、たちまち人気作家へ。43年、朝日新聞に『宮本武蔵』の連載を開始。爆発的な人気を得て、国民文学作家の地位を不動にする。70歳で、この世を去る(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たつや
45
吉川英治はもう一度、親鸞を書きたいと言ってたそうですね。自身の年齢や成長に合わせてその時の親鸞を書きたいと。結局、3度目の親鸞は書かれることなく吉川英治さんは亡くなったそうです。多分、親鸞を通して人間を描きたかったのかな?と、強く感じた読後です。2016/11/24
OCEAN8380
8
親鸞60歳までの話。越後に流罪そして常陸国で物語を終える。吉川さんの作品は読みやすくて面白いです。また、吉川さんの作品が読みたいです。2016/05/20
ken
3
悪人たちは親鸞に出逢い回心し信仰に生きていく。それは自身の性欲に悩んだ吉川が親鸞の思想の中で最も共感したのが「悪人正機」だからなのだろう。親鸞の言うところの悪人とは「法的道徳的な規範から逸脱した人」を意味するのではなく、「自身の存在に絶望をした人」を指す(もっとも道徳や法律がその絶望を促すのだが)。そもそも救済とは信仰がなければ得られず、信仰とは絶望がなければ得られない。絶望の先は自殺か狂気か宗教しかない、紙一重なのだ。作品は予定調和的な感は否めない展開ではあったが、改めて悪人正機について考えさせられた。2016/11/03
kaede0914
2
越後へ追放されても、その地で新たな信仰の種をまく善信=愚禿親鸞。下野(栃木)にも居たということを、この本で初めて知った。今度、栃木県真岡にある専修寺にも足を運んで、親鸞の足跡を辿ってみたいと思った 流石、吉川英治氏。非常に読みやすかった。2021/05/09
デントシロー
2
流罪を受け赴いた越後、流罪を解かれ法然の死を知った親鸞が長野、茨城下野での布教の様子がいろんな事件とともに書かれている。最後の平次郎とお吉の物語は親鸞の晩年の愛弟子、唯円である。歎異抄の作者と目されている人である。茨城の布教後もいろんな言い伝えがある。五木寛之作の親鸞では詳しく書かれていた。吉川版では悪人が親鸞の教えに帰依する物語が主体となっており痛快さと浄土真宗の素晴らしさだけが強調されており人はみな罪から解放されており興醒めな点もある。罪を犯した者には当時の法があり法の中で宗教も存在する。2016/09/13