出版社内容情報
居庸関を指呼の距離に望んだ成吉思汗は、主翼軍全軍に布告した。「積年の宿敵は眼前にあり。我が黄金の民族を蛮族と蔑み、貢納の使者を長城の外から追い返し、我らが父祖の生皮を剥ぎ、木馬に釘打ちにして八つ裂きにし、犬に食わせて殺した讐敵の胸元に迫った。汝ら、五本の指の爪が剥がれ、十本の指が擦り減るまで、我が仇を報ずることに努めよ、我が仇を討たずして、我が霊の休まることなしと仰せ残したアンバガイ・ハーンの怨みを晴らすときがきた。我が民族は捕虜、もしくは囚人として以外は長城の内に入った者はない。いまこそ屈辱の長城を勝利者として越えるときがきた。中都を見るまでは、一兵たりともブルハン・ハルドンの麓へ帰るとおもうな。全軍打ち揃うて居庸関を越え、もって積年の怨みを散じ、祖霊を安んぜん。一人の功を焦るな。全軍一丸となって敵に当たれ。名を惜しみて命を惜しむな。明日は一兵残らず居庸関を越えようぞ」成吉思汗の布告に全軍は奮い立った。(本文より)