感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
もりくに
31
坪内雄三さんに、山田稔さんは聞いてた。彼は、京大の仏文の先生で、小説もエッセーも書き、今回はエッセー。表題の「マビヨン通り」は、パリ留学中に歩いた通り。その十番地の地下の「穴倉」に椎名其二(全然知らなかった)が住んでたと。時々帰国し、大杉栄の後を継いで、ファーブルの「昆虫記」を訳したと。モットーは「成功を避けよ」で、パリに窮死した。表題からパリの思い出話集に見えるが、彼が長い間関わった人達の話。仏文の先輩、生島遼一さんとは92通もの手紙のやり取りも。はがきが多いので、要点が簡潔「名文ではない、いい文」と。2018/10/06
Gatsby
14
新聞の書評欄で山田先生の写真を見かけて購入。久しぶりに山田ワールドの空気を吸って、懐かしく感じた。確か芥川賞の候補にもなった「コーマルタン界隈」は、私が大学生の時に愛読した。先生の雰囲気と一緒でどこか飄々とした感じがする文章で、本書の中で出てくる生島先生の言う「名文でない、いい文章」であることを実感する。本書に出てくる人たちには、私はもちろんお会いしたこともないのだが、山田先生の筆を通すとなぜか懐かしい気分になる。久しぶりに先生の昔の本も読んでみようかと思う。2010/11/22
ぞしま
13
これまた非常に好みな内容だった(すこし前に読んだ『別れの手続き』の方が好きだけど)。 「富来」(とぎ)→乳汁の洗眼、「シャンソンの話」→ワサブローさんの思慕、「小沼丹で遊ぶ」→かしらん数え&小沼評、などはひときわ印象深く、味わい深く、ユーモアを感じる。 一方で、「後始末」、「一徹の人」、「生島さん」「転々多田道太郎」など、静かに悲哀が漂うような話も、一つは対象との距離が適切に保たれていることに起因していると思われるが、とても(心地)良い。 読みたい作家が増えるのもありがたい。2020/08/19
きりぱい
10
タイトルと表紙の絵から、海外での滞在の話が多いのかなと思ったら、マビヨン通りだけで、他は、古くからの知己や文学交流の回想であった。薄情な態度を取ってしまったと、ばつの悪い思いをしては、汲々として巻き返しをはかったり、そのありのままの綴り方が魅力で、物悲しい余韻の味わいまであっては、本当に非凡な小市民という感じ。小沼丹の「かしらん?」の話は、前にも読んだのにまた笑ってしまった。クセの強い前田純敬や飯沼二郎とのやり取りが印象的。2011/08/22
sawa
8
★★★★☆ 週刊ブックレビューで堀江敏幸が紹介した本。同じく出演していた豊崎由美といしいしんじも絶賛だった。老人が亡くなった知人の思い出を語るエッセイ集と言ってしまうと、途端に読む気が失せるのだが、いわゆるそういう類のものとは全く異なる。悲しみというより、哀愁を感じさせる抑えられた文体が非常に品よく、著者の素直で優しい人柄がよく伝わってくる文章。読んでよかった。(図)2011/07/29