感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
兎乃
31
ブッツァーティ作品の中で一番のお気に入り。なんでもアリの短編集で 他作品群とは手触りが異なる。“クレッシェンド”の鮮やかさ、ドタバタも数編。実験的なムード満載ではあるケド だからと言ってクノーの潜在文学工房の素養は必要なく 美術家的インスピレーションが色濃いと感じたり。再読の試みも してやれてしまい 最後はブッツァーティの勝ちで終わるわけです。2015/06/02
たまご
13
ブッツァーティ最後の短編集の半分の作品が翻訳されています。残りは最近刊行のババウですね。ババウ同様、老いを感じる作品が多かったです。「時間のほつれ」の隙間から、今の世を見てニヤリとしてないかな、ブッツァーティ。2023/04/22
roughfractus02
9
N・フライの小説の定義が何でもありだったことを思い起こす25の実験的短編が収録される本書だが、作者の小説の主役が時の残酷さである点は一貫している。本書の各作品の世界では、時は悪魔的な隠喩として潜在し、何度も繰り返されるドアのノックと開け閉め、突如肥大するプラスチック製品、話し始める中古車といった日常のタガの外れた出来事と共に、登場人物達の前に様々な姿で現れるようだ。こうして、老いと死の匂いが漂う日常の線形的時間が時の残酷な切断に見舞われると、登場人物達の身体の緊張と弛緩は読者の心に恐怖と笑いを引き起こす。2022/04/24
三柴ゆよし
9
『神を見た犬』に比べると、技巧的・実験的な作品が多く収録されていて、この作家のまた別の側面が楽しめた。そのものズバリなタイトルだからなんとなく予想はつくが、「モザイク」はドナルド・バーセルミの断片の手法なんかに近いし、「クレシェンド」はレーモン・クノーの『文体練習』とか筒井康隆の反復記述を髣髴させる。小説家、というよりはむしろ芸術家だったんだろうな、この人。次は『タタール人の砂漠』を読んでみたい。2009/06/14
きゅー
8
他の作品集とは一味違っており、あまり起承転結のはっきりしない散文的な物語が多い。その中でも面白かったのが「クレッシェンド」。たしかにレーモン・クノーの『文体練習』を彷彿とさせる。その後、会話をする中古車の話や、プラスチック製品が突如肥大化する事件についての話など、お馴染みのブッツァーティ節も健在ではあるものの、衒学的な笑いを誘発するような、挑戦的な短編が多くを占めている。そして最後の物語「翼の生えた妻」では、ブッツァーティのニヤリとした顔が思い浮かばれるような一文で締めくくられた。2013/01/28