内容説明
本書は修復の科学技術や技法を説くものではない。芸術作品や文化財の保存・修復が実行される以前、あらかじめ省察を必要とする理念を問題とする。わが国でも高松塚古墳、キトラ古墳の保護・継承をめぐり議論が高まる中、参照すべき必携の書である。
目次
修復の理論(修復の概念;芸術作品における“物質”;芸術作品の“潜在的な統一性”;芸術作品と修復に関する“時間”;歴史性の要件からみた修復;美的な要件からみた修復 ほか)
補遺(偽造;欠損部処置の理論的注解;モニュメントの修復のための原則;古代絵画の修復;パティナ、ワニスおよびヴェラトゥーラに関連する絵画の洗浄;「ワニスとグレーズに関する事実に基づく考察」 ほか)
著者等紹介
ブランディ,チェーザレ[ブランディ,チェーザレ][Brandi,Cesare]
1906年シエナ生まれ。1939年ローマにあるイタリア政府の中央修復研究所を創設し、20年間その所長を務める。その後1961年よりパレルモ大学美術史教授、1967年よりローマ大学(現ローマ・ラ・サピエンツァ大学)現代美術史正教授となる。1959年には美術批評活動の功績に対しアッカデミア・ナツィオナーレ・デイ・リンチェイよりフェルトリネッリ賞、1977年にはコンテンポラリー・アートに関する著述に対しヴィアレッジョ賞など受賞する。また、1960年にイタリアから文化功労ゴールド・メダルを授かり、フランス大使館からはオフィシエ・ド・ラカデミーに任命される。1951年からユネスコ機関(ICOM)の文化遺産保存修復関係のミッションを引き受けるとともに、文化遺産イタリア国内審議会芸術・歴史遺産委員会委員長などを歴任する。1988年没
バジーレ,ジュゼッペ[バジーレ,ジュゼッペ][Badile,Giuseppe]
1942年シチリア生まれ。1964年、チェーザレ・ブランディの指導の下、パレルモ大学で美術史学士号を得て、1965~67年ジュリオ・カルロ・アルガンの指導下でローマ大学美術史専門分野を修了。1976年より文化環境省美術史専門官。1987年より中央修復研究所の美術歴史財修復介入処置サービス事業部長。またローマの“ラ・サピエンツァ”大学専門分野で「美術作品の修復の理論と歴史」の講義を担当するほか、1995年より教会文化財教皇庁委員会および神聖考古学教皇庁委員会の常任委員を兼任。監督した数多くの修復事業の中に、ミラノのレオナルドの『最後の晩餐』、アッシジのサン・フランチェスコ聖堂壁画やパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂ジョット壁画の修復がある
小佐野重利[オサノシゲトシ]
1951年山梨県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中途退学。東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門はイタリア15世紀美術史で、1999年より研究雑誌『西洋美術研究』(三元社)の編集委員を務め、企画執筆に従事する。イタリア政府よりCavaliere all’Ordine della Stella della Solidarit´a Italiana騎士勲章を受勲。著書に『記憶の中の古代―ルネサンス美術にみられる古代の受容』(第十六回マルコ・ポーロ賞受賞、中央公論美術出版)など多数
池上英洋[イケガミヒデヒロ]
1967年、広島県生まれ。東京芸術大学美術研究科修士課程修了(美学・美術史)。恵泉女学園大学人文学部助教授(専門は西洋美術史)
大竹秀実[オオタケヒデミ]
1973年、千葉県生まれ。東京芸術大学美術学部芸術学科卒業、大学院文化財保存学保存修復油画科修士課程修了。フィレンツェ大学専修課程文化財保存科学修了。フィレンツェ国立修復機関オピフィーチョ・デッレ・ピエトレ・ドゥーレ(貴石加工所)にて研修。東京芸術大学大学院文化財保存学保存修復油画科非常勤講師、東京文化財研究所国際文化財保存修復協力センター調査員
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