出版社内容情報
椎名麟三と大岡昇平それぞれの文学テクストにおける「死」および「死者」の表象を分析し、そのありようが「戦後」の文学にいかなる問題を提起し、あるいは可能性をもたらしたかを探る───。
序章 「戦後文学」の思考/志向
第一部
「死」の文学――椎名麟三論
第一章 「死」と「庶民」
――椎名麟三「深夜の酒宴」論
第二章 「死」と「危急」
――椎名麟三『赤い孤独者』論
第三章 回帰する「恐怖」
――椎名麟三『邂逅』論
第四章 「庶民」と「大衆」
――椎名麟三と映画
第五章 「自由」と表象
――椎名麟三『自由の彼方で』と『私の聖書物語』
第六章 「ほんとう」の分裂
――椎名麟三『美しい女』と「戦後」の文学
第二部
「死者」の書法――大岡昇平論
第七章 大岡昇平とスタンダール
――ベルクソン・ブハーリンを軸として
第八章 増殖する「真実」
――大岡昇平『俘虜記』論
第九章 「二十世紀」の「悲劇」
――大岡昇平『武蔵野夫人』論
第十章 「死者は生きている」
――大岡昇平『野火』論
第十一章 「亡霊」の「戦後」
――大岡昇平「ハムレット日記」論
第十二章 「死者」は遍在する
――大岡昇平と「戦後」
終章 「責任」と主体
――「戦争責任」論と椎名麟三・大岡昇平
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ザックばらん
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書き下ろしの序章、終章にて行われる言説の整理は非常に手際がよく、白眉。椎名麟三、大岡昇平それぞれの作品論もまたユニークではあるものの、やはり強引さ、荒さが残る。引用元の言説を「」で括ってそのまま援用、論理の裏返し(「確かに~だが、それはこうも言える」)、指示範囲の画定が難しい術語の頻繁な利用(「表象不可能性」など)、疑問形での論理展開の多さ(「~は~なのだろうか」)など、文体や構成の部分が引っかかる。 決め所ではもう少し言葉を費やして欲しかった。緻密な資料の読み込みを大きな言葉で括るのは損だと思う。2016/01/29
e.s.
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本書は、全体性の獲得を目指す「戦後文学」への批判者として椎名麟三と大岡昇平を論じている。著者の試みを整理するならば、椎名の小説は、全体性に回収されない例外へ否定神学的に突き当たることで、「男性の論理」(ラカン)を表し、大岡の小説は、全体性を欠いた複数の真理を産出する「書記行為」により「女性の論理」(同)を表していると言える。全体性批判の問題は、最終章で戦争責任論を主題として展開されるが、就中、大岡は、それを超えてよりラディカルな日本の「統治」への批判者ではなかったか。歴史小説等、更なる読解を期待したい。2016/01/17