内容説明
童話や絵本、詩など幅広い創作活動を行い、気がつけば半世紀がたちました。80歳を超えましたが、創作意欲が衰えることはありません―そんな神沢利子さんが、折々に綴ってきた創作、エッセイを一冊の本にまとめました。書き下ろし二本(「守護霊さま」「同じうたをうたい続けて」)を含めた21本の小品が並んでいます。神沢さんが描いた絵本も顔をのぞかせています。神沢さんの足音が、ページのあちらこちらから聞こえてきます。生きていることの喜びが伝わってきます。
目次
1 川のうた(林のなか;川のうた;思いで泥棒;さくらさくら)
2 草・虫・人生(わたしと絵本;知床 ほか)
3 ほそ道のうた
4 同じうたをうたい続けて(枯野の母;北斗と熊と ほか)
著者等紹介
神沢利子[カンザワトシコ]
1924年、福岡県に生まれる。幼少期を北海道、樺太で過ごす。文化学院文学部卒業。『いないいないばあや』で日本児童文学者協会賞、『タランの白鳥』で産経児童出版文化賞大賞をそれぞれ受賞する。一連の作品・業績で路傍の石文学賞、モービル児童文化賞、巌谷小波文学賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ふう
91
初めて読んだ作品はウーフシリーズ。ほのぼのとした作品から想像していたイメージとは違う横顔の表情、そして歴史でした。昭和の始まりに生まれてサハリンで暮らし、夫婦で肺の病にかかり、夫を送り母を送って生きてきた女性の暮らしがどれほど厳しいものだったか。それでも悲しみと喜びを静かに受けとめて語る言葉は美しく、わたしも残り少なくなってきた時間だけど、先を行くすてきなお手本に出会えたことを大切にしたいと思いました。2018/08/18
夜間飛行
82
この人の文章をずっと読んでいたい。《十四の夏、東京へきた。病弱で休学をしていたが、よく二階の窓から猫のようにこっそり屋根へ下り、坐って星空を仰いだ。北冠という美しく連らなった星をあたまにのせることをうっとりと夢みているわたしの前に、突如、体温計や水枕のかたちの星々が現れ、悪意に満ちた目くばせをするのだった。敗けるものかと舌をだしたり睨んだりするのだが、たまらくなって部屋へかけこみ、ふとんにもぐりこむ》。肉親への複雑な思いを吐露しながらこんなに透き通っているのは、感受性を開いていこうとする確かな意志ゆえか。2018/09/06
ちえ
30
一つ一つの文章を掬い取るように、じっくりと大切に味わって読んだ。なんて凛とした方なのだろう。サハリンで過ごした子供時代、創作に出会った東京での学生時代、復員兵として戻った夫とともに肺の病にかかり、生活のため文章を書き始め次第に児童文学者として知られ、その間も夫の姉や母親を支えて・・・子供のころから好きだった神沢さんの児童文学、大人になってから出会えた絵本、そして神沢さんが自分自身を見つめ、振り返りながら語る文章に出会えたこと、今とても幸せだと感じる。いつも少しでも神沢さんのような感性に近くありたい。2018/09/23
ochatomo
19
最新の、とはいっても13年前に御年82歳で編まれたエッセイ・掌編集 題名となった書下ろし簡略自伝と 母の友1975年9月号掲載のエッセイ「草・虫・人生」が印象深く思えたが、「おばあさんになるなんて」(1999年)の読後に読み返すと他の作品も神沢さんの心情を感じて趣深い 書斎の小物写真が愛らしさを添える(坂本真典氏撮影) 2006刊2019/10/18
slowpass
9
感想めぐりしていてたまたま出会った本でしたが、タイトル、そして写真に惹かれました。神沢さん、小さい頃はたぶん何かを読んだと思いますが、名前さえも忘れていました。読みはじめると、言葉がもつ質の豊かさに驚きました。大きな木のたくさんの葉が秋になって落ち、それが厚く豊かな腐植土の層を作っているような。また時と個人について深い示唆を得ることができました。生きている間には理解できなかった親、「戦争」を構成していた一人として考え続けること。一人の生涯のなかで完結できず解決されないものもあると認めることの意味を。2023/02/12