内容説明
海を越えるということは異郷の地に足を踏み入れることですが、別のみかたをするならば、そこで自己を発見することです。さらには、そこでの発見はもともと自己に内在していたものの発見なのではなく、新たなものとなった自己を発見するのです。ただ、人によってそれを瞬時に自覚するか、ずっとのちになって回顧しつつ確認するかの違いはあります。いずれにせよ海越えは、サルトル的に表現するならば「投企する意志」、マルクス的に表現するならば「変革する実践」に多少とも共感する人には意味がでてくるといえましょう。けれども、海を越える人はだれもみな自己を発見するとは限りません。既存の価値序列や権益にしがみつき、もしかすると自己否定に行き着きかねない自己発見など己れの意に反するとしてまったく顧慮しない人たちは、海を越えても、その行為は自己を越える契機にならないのです。むしろ、自己に閉じこもる契機となりましょう。今回の特集が意味をもつかいなかは、読み手一人一人の実存=来し方におおきく依存しているのです。
目次
「太陽の塔」の下にあるもの―岡本太郎のパリ時代
福本和夫のドイツ留学と日本マルクス主義
大山郁夫における在外体験と志向スタンス
出隆における曲線と直線―ヨーロッパ体験と哲学50年
国分一太郎、東シナ海を渡る
海越えの思想家たち―革命思想家と神話学者
海越え海外版 ジルベルト・フレイレとルゾ・トロピカリズモ―海を越えた思想家と思想
古典の森散策 バイブルの精神分析(その三)
紀行エッセー 仮面の美学―ヴェネツィア冬紀行
余韻のW杯 フランスが移民を愛した夜
プロムナード・エッセー 素朴造形美術に歴史知をみる―ケルト美術展・クメール美術展・ブッダ展