出版社内容情報
戦後日本の原風景がここにある。第二次世界大戦で焼け落ち、忘れ去られた田舎町。それでも、やがて人は生に向かって歩み始める!
内容説明
焼け落ち、忘れ去られた片田舎、鯨町。死にゆく者は死に、湧きあがる泉の水に浄化され、全ては生に向かって歩み始める。戦後日本の原風景がここにある。
著者等紹介
丸山健二[マルヤマケンジ]
1943年、長野県飯山市に生れる。国立仙台電波高等学校卒業後、東京の商社に勤務。66年、『夏の流れ』で文學界新人賞を受賞。同年、芥川賞を受賞し作家活動に入る。68年に郷里の長野県に移住後、文壇とは一線を画した独自の創作活動を続ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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harass
46
安部公房本でこの本を褒めた話があり手に取る。以前この本は文春ででていたらしい。終戦直後の日本の架空の町を舞台にした小説。主人公の少年と復員兵の父、隣の町で有力者と暮らす母と妹。米軍が終戦間際に落とした二つの爆弾が生活用水の源だった池を枯らしてしまって、町は寂れていた。イメージ豊かで、ノスタルジー溢れる世界で、声に出して読みたいような名文なのだがどうも個人的に面白く感じない。不純物が全く無い水に美味しさを感じないような印象。文章がドライすぎる風に感じるせいか。2016/04/28
ももたろう
11
『泉』『虹色の小魚』『踊りの輪』、という言葉が素敵で印象的な物語だった。泉は、生きとし生けるものの生命の根源にあるエネルギーの象徴だと感じた。虹色の小魚とは、そのエネルギーを思う存分に享受し生きている存在で踊りの輪とは、生命そのものを輝かせる生き方がどんどん周りを感化していく象徴のように感じられた。早川邸、母と妹、燃え上がる軍需工場、父との再会、鯨町の森の中の暮らし、青木先生とその死、安藤さんやその仲間達と滄海楼での日々、トモエさん、原野を彷徨う坊主、泉、虹色の魚。人間味溢れる濃厚で味わい深い作品だった。2015/11/29
どらいち
0
硬質な文体で生命力を感じさせる作品。 戦後の飢えと隣り合わせの時代、カツカツで生きるしかない人間と、生命力溢れる鷹や鯨そして小魚との対比が随所に散りばめられる。 太った坊主の『どう頑張ってみたって人間以上のものにはなれないんだからな』『人間以下のものなら今すぐにだってなれるのにな』という台詞が読み終えた今も深く残る。 そしてラスト、生き残ったものたちが「生」に向かって確かに歩みだす。やっぱり生きてナンボなんですね。 しかし、坊主、飢えてるのになぜ太ってる?2023/08/23