出版社内容情報
詩人の没後五年を機会に、書き残しながら本にまとまらずに終わった断章の連作「誰も気づかなかった」と、「夜の散文詩」シリーズの5篇を小さな本として刊行。「本があった。/しかしそれが本だと、/ここにいる誰も、気づかなかった。/本は読まれなかったからである。」このようなリズムをそなえた箴言と、晩年の景色を記した散文詩。長田弘さんがぜひ伝えたかった思索の結晶を傍らに置いて、何度でも読みかえせるように。
内容説明
本があった。しかしそれが本だと、ここにいる誰も、気づかなかった。本は読まれなかったからである。没後五年、詩人がそっと遺してくれた断章を一冊に。
目次
誰も気づかなかった
夜の散文詩(図書館の木の椅子;静かな闇の向こう;ONE;一瞬は永遠よりも長い;街路樹の幻)
著者等紹介
長田弘[オサダヒロシ]
詩人。1939年福島市に生まれる。1963年早稲田大学第一文学部卒業。65年詩集『われら新鮮な旅人』でデビュー。98年『記憶のつくり方』で桑原武夫学芸賞。2000年『森の絵本』で講談社出版文化賞。09年『幸いなるかな本を読む人』で詩歌文学館賞。10年『世界はうつくしいと』で三好達治賞。14年『奇跡―ミラクル』で毎日芸術賞。2015年東京都杉並区で死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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旅するランナー
189
たとえ誤りにみちていても、世界は正解でできているのでなく、競争でできているのでもなく、こころを持ちこたえさせてゆくものは、むしろ、躊躇や逡巡のなかにあるのではないか。この1ページに心震えた。僕は何でできている?2020/06/25
アキ
86
ことばは、ことば通りの意味じゃない。ことばで伝えたことや表に出る感情がすべてであれば、そこにある微笑みも、無言も、飄々も、激怒も、悲しみにも気がつかない。ほんとうのことというのは、ほんとうのことなのだろうか。2つにひとつを決めるのは、考えではない。そこに至るまでの躊躇や逡巡に考えはある。何だって正しければ正しいのではない。きみは何でできている?多くの問いが読者に投げかけられる詩集。夜の散文詩では、NY公立図書館の木の椅子が出てくる「図書館の木の椅子」が好み。「街路樹の幻」「一瞬は永遠よりも長い」もいい。2020/06/20
モリー
70
長田弘さん詩はいつも固定観念を強く揺さぶります。この詩集に収められた詩からもそう感じました。「考える」とはどういうことなのでしょうか。私たちは生き抜くために常に選択と決断を迫られます。するかしないか、進むか引くか、生きるか死ぬか・・・。このような二者択一の連続とも言えます。しかし、人生に正解などありません。まして、競争で勝ち抜くことが人生の目的でもありません。心はいつも揺れ動きます。「考える」とは躊躇や逡巡しながら生きること。正解のない人生を躊躇しながら、逡巡しながら生きていこう。詩の言葉に励まされます。2020/08/17
とよぽん
65
タイトルに惹かれ、作者の名前を見て、新刊?と思った詩集。声に出して読んでみた。決して声高ではないけれども何か、斬り込んでくる力強いものを感じた。「あらゆることは、ただそれだけの / 些事としてはじまる。/ 戦争だって。」「物事は二つに一つでなく、何事も / 二つに一つだと考えないところから、/ 『考える』ははじまる。」そして、散文詩5篇にも鋭いものを感じた。2020/11/24
けんとまん1007
60
長田さんの言葉は、わかりやすい平易な言葉が多い。それでいて、その言葉が重なると、限りなく広く深い世界が、顔を出してくる。それが、読む人の心にじんわりと沁み込んでくるように思う。薬に例えると、漢方薬のような味わいがある。だからこそ、時々、思い出してはまた読み返したくなる。人はいろいろな表情を持っているが、その後ろには、たくさんの思いがあることを忘れたくない。2020/06/22