出版社内容情報
少年期から現地での生活を経験し、ケンブリッジに進んだ著者だからこそ書ける極めつけのエッセイ集。既存の英国像がみごとに覆される。解説 小野寺健
内容説明
なにも絵画や彫刻、音楽だけが文化なのではない。あたりまえの日常にいちばん近い部分を発達させること。それこそが文化なのだ。吉田健一は、エリザベス朝にはすでに水洗トイレがあったことを指摘し、そこに実用性を重んじるイギリス文化の本質を見る。イギリスで他の芸術に比して文学が発達したのも、文化的であろうとしたからではなく、日常の言葉へのこだわりが、自然と、詩や小説というものになっていったからなのだ―。胡瓜のサンドイッチやハムの味、酒の飲み方など、身近な話題を入口に、いつの間にか本質的な部分へと読者をいざなう、名人芸的文化論。
目次
象徴
英国昨今
英国紀行
英国の文化の流れ
英国の形
ヴィクトリア風
英国の絵
英国の四季
英国人について
常識〔ほか〕
著者等紹介
吉田健一[ヨシダケンイチ]
1912‐1977年。東京生まれ。吉田茂元首相を父とし、幼少期を、イギリス、中国などで過ごす。ケンブリッジ大学に学び、帰国後、文筆生活に入る。ヴァレリー、ロレンス等の翻訳、および文芸評論の分野で活躍し、自身も珠玉のエッセイや小説を多数残した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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masabi
10
【概要】戦前戦後の英国を主題にした随筆集。【感想】食とお酒、アフタヌーンティーに多くの紙面が割かれている。今では普及しているが、執筆当時の日本には馴染みなかったパンダやクロワッサン、マーマレードなどの説明が時代を感じさせる。食事やアフタヌーンティーに関する考察は興味深かった。厳格な冬を乗り越えるための身体作り、心の余裕を得るための生活の知恵といったところ。安い料理に味を期待するな、美味しい料理を求めるなら高級店へ。古き良きイギリスということで現在はどうなのだろうか。2020/10/20
paluko
7
182頁「話をしているうちに、東京の爆撃のことが出て、博士がいきなり『しかし、君、草の家に住むものは石を投げてはならないっていう諺があるからな』と言った時には」People who live in glass houses shouldn't throw stones. (ガラスの家に住んでいる者は石を投げてはいけない)著者は小学生時代からイギリスで教育を受け完全なるバイリンガルと思われるのに、弘法にも筆の誤りってまさにこういう事を言うのでしょうね。2020/11/14
シタン
3
英国についてかかれた随筆集で、英国を総合的に味わえる一冊。著者の教養が光る。時代は変遷し、今の英国は変わり果てた姿だが、このような本で昔の英国を知ることができるのは素晴らしい。特に四季に関する話が美しくて良かった。また英国に行きたくなった! ちょっとの間外国に行ってろくにその文化に親しまなかった人間に限って帰国後に滔々と文明批評をし始めるなど、鋭い警句的表現も魅力。また、思考の流れをそのまま辿るような、屈折が多い長文を駆使した独特の文体が味わい深い。2018/01/06
watson
2
近代まで絵画や音楽に大したものが無かった英国の文化というものの本質を突く文化論。一年の半分を占める小鳥も凍死する冬、激烈な美しさのために味わうのに頑健な精神力を要する夏、という英国の自然が、それにふさわしく人間を創りあげた。生きることに労力が要る自然の中で、まずは生きることが大事で、生きる以上は楽しくしたい。そのとき最も直接的に精神に訴えるのは文学だ。エヴェレスト登頂や植民地建設は、冬に散歩して帰ったら紅茶が旨い、頑張って仕事すればもっと旨いという理屈だ、の辺りは実に巧い表現。2016/05/01
ELW
1
「……支那人は徹頭徹尾、戦争というものを嫌う。」とイギリスの老人のコメントが紹介され、著者は「あれだけの厖大な文学に、事実、軽騎兵の突撃を歌う、などという題の作品は一つもない。」と述べておられるのは、詩文に限定され てのことだろうか。「鰻の煮こごり」に辟易とされたのには 笑った。あと、キュウリのサンドイッチを誉めて「……噛んでいると目の浦に緑色の芝生が拡がり、緩慢に流れていく河の水面に白鳥が二、三羽浮んでいるのが見える趣向になっている。」は斬新すぎて息が止まりそう。2017/10/07