出版社内容情報
悪魔の肖像を描いた画家、地球を割ろうとした男、新文字を発明した人々など、狂気と創造のはざまを生きた偉大なる〈幻視者〉たちの魅惑の文化史。
内容説明
悪魔の肖像を描いた画家、地球を割ろうとした男、偉大なる記憶力の持ち主、新文字を発明した人々、二つの人格を往復した男―。過剰なる夢想と偏執の果てに何ものかを見出し、われわれに別世界の訪れを予感させる古今東西の幻視者たち。かれらの得た奇妙なインスピレーションを解明し、「創造と狂気」のはざまを生きた人々の謎と魅力に迫る野心作。
目次
序「パラノイア創造史」の創造史
1 悪魔の肖像を描いた画家―クリストフ・イツマン
2 妖精に憑かれた家系―チャールズ・オルタモント・ドイル
3 永久運動機関の発明家―ウィリアム・マーチン
4 地球を割ろうとした男―ニコラ・テスラ
5 驚異の心霊的発掘家―フレデリック・ブライ・ボンド
6 異端派転生を信じた医者―アーサー・ガーダム
7 フロイトと交感した患者―狼男
8 二つの人格を往復した男―エンゼル・ブーン
9 太古の記憶を幻視した詩人―AE
10 偉大なる記憶力の持ち主―“シィー”あるいはエス・ヴェー・シェレシェフスキー
11 新文字を発明した人びと―鶴岡誠一and/or島田文五郎
12 幻覚幻聴体験と電気感覚―電気屋
13 奇妙な家を建てようとした男―赤木城吉
14 架空のパラノイア患者の転生―桜姫
付録「パラノイア創造史」類似行為者目録抄
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
耳クソ
19
「偉大なる記憶力の持ち主」の章が面白い。よくSFなどで語られる人間の大脳の使用効率の話は各感覚器官の処理能力とのバランスを考えれば何も不思議ではないという前提で、ボルヘスが「記憶の人フネス」に書いたような人物(シィー)が実際にいたことを紹介し、彼の記憶法=記号の物語化の方法や欠点、バランスを欠いた処理能力を持つ彼の苦悩が語られながら、その恵まれた「共感覚」から総合感覚的な「像」=絶対普遍記号=ライプニッツの夢見た完全言語を見出す。だがシィーには詩がわからなかった。彼の物語のなかに詩は在り得なかったのだ。2022/03/03
拓也 ◆mOrYeBoQbw
16
コラム・エッセイ。心理学者フロイト、科学者テスラ、幻視家(かつ詩人)AE、妖精画家チャーズル・ドイル(コナン・ドイルの父)、その他、霊視発掘、異端派転生、脅威の記憶術、新言語/新文字・・・荒俣先生が収集した狂気と幻視、その先に別世界を視た天才達を取り上げたエッセイ集です。単純に芸術や心理学の話と思っていると、物理学者のテスラやウィリアム・マーチンが出てきたり、あるいは20世紀初頭の巨匠や政治的トップに大きな影響を与えてたりと、現実と狂気の狭間が”薄い壁”である事も感じられるのが面白い一冊です(・ω・)ノシ2016/02/09
猫丸
11
再読。つまらぬ一般人カテゴリを踏み超えた人物伝。公的に偉人とされているのはニコラ・テスラくらいであり、他は病者の範疇に入れることが多いだろう。癲狂院に住んだ人の中でも意識変性のレベルは多層にわたり、創造的狂人として作品を遺すような「ちょうどよい」具合に留まることは難しいようだ。そのバランスの実現例として「勝手に個人文字を作ってしまう人の筆蹟(p.213)」は確かに極めて美しい。すぐれた芸術は感覚器官を一時的に幻惑する作用がある。幻覚・幻聴のなかに常在する人は芸術と親和性が高いのは当然といえる。2021/06/26
不在証明
8
偉人の伝記で名を見かけるのはエジソンばかりだ。ニコラ・テスラの名を知る小学生などまずいない。最近『オカルティック・ナイン』というアニメを観たのも相まって、ニコラ・テスラの章が大変楽しめた。新たな発明品を思いついたら空想の段階で完成品を造りあげてしまうという変態ぶりを発揮し、地球を真っ二つに割る計画を立てたり数百万ボルトの放電の中で読書をしたり、とかなり頭がおかしい(褒め言葉)。他「奇妙な家を建てようとした男」の章と、精神病関連でドグラ・マグラに関する考察をしているのが興味深かった。2018/02/19
ふるい
8
たいへん面白く読んだ。コナンドイルの父親も妖精マニアだったんだなぁ。あとはフロイトの患者狼男のエピソードとか呉秀三にまつわるあれこれ(ドグラ・マグラにもつながる)などがよかったです。いろんなヤバイ人が出てくるけど荒俣先生はその人たちがほんとにこの世ならざるものを見たのか否定も肯定もしてないのもいい。もしかしたら向こう側ってほんとにあるのかもしれないし…。2017/10/06