内容説明
「コンペニー」「コルポレーション」「バンク」を創り、新たな国家システムを構築した“富国共栄”の設計者・渋谷栄一。「経済の平和は民心の平和に基を置かねばならぬ」ことを信じた男の発想力、行動力の源泉とは何だったのか?現代社会にも通じる混乱と閉塞を駆遂し、改革を断行した不世出の経済人の生涯を描き切る歴史巨編。
著者等紹介
津本陽[ツモトヨウ]
1929年和歌山県生まれ。東北大学法学部卒業。78年、「深重の海」で第七九回直木賞、「夢のまた夢」で第二九回吉川英治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mapion
220
野に下り、まずは財務官僚だったときの流れから銀行を設立。以降紡績、セメント、保険、商社、瓦斯、造船、教育機関、証券取引所、窮民救済のための養育院など、数えききれないほどの事業に関わる。関わった事業は500を超えるとか。合本主義でいこうという事なので、資金(資本)集めから始める事業も多い。私財をため込むことをよしとしていない人なので、自分もどんどん出資し、請われて経営者となる事も多かった。日本の産業振興を望み、私利私欲で動いてはいない。たいていの事業家、資本家とは大きく異なる思想を持った人のようです。2025/06/29
まつうら
38
後半は大蔵省を辞したあと、多方面の産業振興に尽力するエピソードが目白押しだ。三井や三菱と違い、自身の経済的成功ではなく、欧米と遜色のない経済基盤を確立することに尽力した姿は、まさに日本経済の開祖。もし渋沢がいなかったら、現在の日本経済もどうなっていたかわからないだろう。キーとなったのは、士農工商で最下位だった商人の地位を引き上げたこと。利己主義に走りがちな商人を、論語と算盤の考え方で指導して品格とステータスを高めることがなければ、豊田喜一郎や盛田昭夫ら、戦前戦後の経済人たちの登場もなかったかもしれない。2024/05/16
koji
21
下巻は、下野後殖産興業に邁進する姿を描きます。大河ドラマの観点からは渋沢栄一は稍地味ですが、小説で読むと興趣が尽きない人物でした。中でも印象に残ったのは栄一と従兄弟の喜作の間柄。二人は気脈を通じていますが、性質は真反対。栄一は何事も一歩ずつ進むが、喜作は一足飛びに利を求める人物。後半生では、喜作は栄一に迷惑をかけ続け投機心を捨てきれないまま亡くなります。唯喜作にとって子孫に人材を得たことと栄一が生涯見放さなかったことが救いでした。しかし生死の境を共にした二人の絆は、栄一にとっても生きる糧だったと思いました2021/06/08
衛兵
21
みずほ銀行、王子製紙、東洋紡、東京ガス、IHI、日本郵船…etc.彼がその創設時に関係した企業はあまりにも多く、いかに彼がバイタリティーに溢れる人物だったかが描かれていく。しかし、それはあくまで日本の産業発展のためであり、私服を肥やす事には興味がない。近代日本の成長に欠くことのできない人物だったことはよくわかったが、明治政府を去り下野したキッカケが尾去沢鉱山事件だったのは興味深かった。2017/09/09
Totchang
16
下巻では数ある関与した企業での活躍を紹介しているが、もうありえない量であって独りの人間業とは到底思えない。『自己はまったくこの会社の公僕であるということを寸時も忘れてはならぬ』。論語とキリスト教、「己の欲しないことを他人に施してはならぬ」と「わが受けた心地よいことを他人に施せ」の違いを、謙遜、謙譲の気持ちの有無ではないかとしています。この辺り、今の政治家、経済界によく考えてほしいものです。孫文と彼亡き後の蒋介石との会見で、その点をこの論語の教えを口にしたとの記述に、最も心を奪われました。2021/01/19