出版社内容情報
いくら「真剣」に「一生懸命」に言葉をかわしたとしても、そう簡単には人とはわかりあえない。人が何を考え、何を感じているかを完全に知ることはできない。あくまでも自分とは違った存在でしかない他の人々と、にもかかわらず誰もが一緒に生きていこうとしている。いったい「社会」はいかにして可能になっているのだろうか。本書は、社会的選択理論や進化ゲーム理論あるいは現代正義論などの成果をもとに、この社会学の根本問題を掘り下げて考察する。言葉を信じ人を受け容れて生きていくことの困難な現代社会で、「寛容」のもつ意味は何か。
内容説明
「私はあなたと共に生きていく」と言おう。言葉を信じ、伝えようとする努力が私たちの“社会”を創る。あるべき社会秩序とは何か―社会的選択理論、進化ゲーム理論、現代正義論の成果をふまえ、掘り下げて考察する。
目次
序章 相互理解という幻想
第1章 決定することの困難
第2章 理解できない他者と理解されない自己
第3章 「理解できない/理解されていない」ことの受容
第4章 非合意の合意
終章 他者と生きるために
著者等紹介
数土直紀[スドナオキ]
1965年メキシコに生まれ、神奈川県で育つ。’94年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、学習院大学法学部助教授、博士(社会学)。著書に「自由の社会理論」(2000年)
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感想・レビュー
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しんえい
4
他者は理解不可能な存在である。それゆえに我々は理解できない他者とコミュニケーションを取らなければならない。受容しなければならない。しかし、ただ受容ばかりしていれば良いわけではない。全てを無根拠に受容することは他者に「自分は取るに足らない存在だ」と思わせてしまうからである。そこで私たちは他者を受容した後に、その他者に対して主張しなければならない。他者を受容し自分の主張を述べること、他者との関わりに伴う誤りを積極的に受容すること。この2つこそが寛容の社会構築に欠かせない。 接続語が多用され個人的に読みやすい。2019/10/21
いとう
1
数土先生、 発達障害児の支援をめぐる医療・教育の連携問題について、多くは他(多)機関連携のために「どのようなシステムが必要か」が問われることが少なくありません。貴書を拝読して『どのようなシステムが必要か』ではなく、「私から始めることが必要である」ということがわかりました。2021/07/20
こずえ
0
寛容であることは現代人にもとめられていることだが、 それ以外に社会学的に「寛容」は価値観の違う他者との妥協として極めて重大なキーワードである。 そのため、社会学にかかわる分野を勉強する人は読むといいだろう。
ゆうき
0
他者とは相互理解で理解できる存在なのか。「理解できない他者」とは永遠に理解が出来ない。だからこそ「理解できない他者」を寛容に受け入れ自分自身の言葉で「理解できない他者」に自分の考えを伝えることが共に生きていくことである2014/01/12
令和の殉教者
0
ゲーム理論を主軸に、不確実性が強い(非限定用法)社会では、とりあえず協調的に振る舞い合う(本文の言葉では「寛容」)ことでうまくやっていくことができる、と主張している。 言いたいことがはっきりしていてわかりやすく読みやすい。また、囚人のジレンマ等ゲーム理論の解説が充実していて、門外漢の私でもついていくのが容易だった。 ただ、一対一の相互行為場面から全体として社会はこうなっていけばいい、というような話をしているので、リアリティがあまり感じられない。コールマンのミクロ・マクロ・リンクとかを知れば良いのだろうか。2018/08/24