出版社内容情報
西欧倫理思想に最も大きな影響を与えてきた古典でありながら、プラトンの『ソクラテスの弁明』などにくらべてわかりにくい印象のあった『ニコマコス倫理学』。本書はその全10巻を、テキストの文章をできるだけ具体的に引きながら丁寧に解説し、アリストテレスが徳の習得と幸福の関係をどのように捉えていたかを明らかにする。
内容説明
人生、いかに生きることが最善の生か?西欧倫理思想に最も大きな影響を与えてきた不朽の古典を、テキストを引きつつ丹念に読み解く。
目次
序章 アリストテレスと先行思想―ノモスとピュシス
第1章 幸福(エウダイモニア)とは何か
第2章 人はどのようにして徳ある人へと成長するか
第3章 性格の徳と思慮との関係
第4章 徳とアクラシア
第5章 友愛について
第6章 観想と実践
著者等紹介
菅豊彦[カントヨヒコ]
1941年愛媛県に生まれる。1968年九州大学大学院文学研究科哲学専攻博士課程中退。現在、九州大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ころこ
46
大変丁寧で、分かり易い言葉で書かれた本です。全体の理解にも配慮があるものの、やはり細かい議論を正確に記述することに重心が置かれているので、分類分けやリファレンスが多く、本体を読んだひと向けの学術的な本かなと思います。幸い『100分De名著』で取り上げられましたので、そちらを優先してまずは読むべきかと。前半はプラトン、後半はカントとの比較によってアリストテレスの思想を浮かび上がらせようとしており、特にカントとの比較は最も現代と接続されている部分で、我々が倫理を考える上で軽視できない論点です。2022/05/31
buuupuuu
16
マクダウェルなどの現代的な徳倫理学に従って、徳の内実を言表不可能なものとし、思慮を普遍ではなく個別的な状況に関わるものと解釈している。すなわち徳のある人に、状況の中で重視すべき事柄を際立たせ、振る舞いの理由を明確化することが思慮の役割である。また、徳の内実を普遍的に規定できないがゆえに、アリストテレスは学習という観点から徳にアプローチしていることが説明されている。冒頭で、ソクラテス以来の課題としてノモスへの懐疑の克服が挙げられているのだが、そこでアリストテレスが頼るのがエンドクサだというのが面白いと思う。2023/03/23
東雲そら
3
アリストテレスがリュケイオン(プラトンでいうアカデミア)で行った講義を、息子のニコマコスが編集した古代の倫理書。幸福(最高善)を"徳に基づく魂の理性的活動"=最善の生を全うすることと定義し、『享楽』『名誉』『知』の三つに区分している。さらに「実践」と「観想」に分け、知っていて行う、行わない(抑制と無抑制、アクラシアの概念)も加えてカテゴライズして考えるという、メモで図解しながら読まないと、なかなか頭に入ってこなかった。著者もカントの解釈を参考にすることを勧めている。2019/03/04
くま
2
原典を読んでとても難しかったので解説書を読もうと、こちらを読んでみたがやはり私には難しかった。古代ギリシアと現在の言葉では、意味のニュアンスが違う点が難しい部分の一つな気がする。幸福…ギリシア語では最高善(人々が目指すもの)、友愛…親と子、客と店員といった社会的な人間関係のように、そこを理解しながらでないと、内容が正確に理解できないと感じた。2022/02/23
asfgrs
1
続けての再読。初回よりも、理解が深まったと感じる。アリストテレスは幸福について「観想的な徳に基づく魂の理性的活動であり、その他の善はこの感想活動のために望ましいものである」と述べている。しかし、本書を読み進める中で、幸福に格付けをするのはおこがましいのではないか、倫理の中のみに幸福を見出すのは実態とことなるのではないか、など、もろもろの発想に至った。今後、アリストテレスの原著、カント、ショーペンハウアーを読んだ上で自身の幸福論を形にしたい。2022/06/29