内容説明
近代における「芸術」は、宗教や政治からいったん分離され、感性的な刺激の彼方にある「美」それ自体を追求する、自律的な領域として形成されてきた。しかし、その一方で、合理化された社会の中でアトム化されている人びとの感性を共同体的に統合する、「共通感覚」を再活性化しようとするロマン主義的な願望も、「芸術」に憑依し続けた。人間の知覚能力を増幅させるニュー・メディアが「芸術」に取り入れられ、相乗効果を及ぼし合うようになった二〇世紀後半以降、「共通感覚」への新たな期待が高まり、他領域との境界線が流動化しつつある。変容しつつある「芸術」の社会的機能について、現代思想の成果を踏まえて、多角的に考察する。
目次
第1章 「作品」と「所有」
第2章 芸術における「解放」とは何か―ジャック・ランシエールの美学理論における芸術と政治
第3章 形姿と“芸術‐政治共同体”
第4章 さまよえるオブジェ―非西洋の器物に対する「芸術」としての資格とその言説
第5章 作品の倫理性が芸術的価値にもたらす影響―不完全な倫理主義を目指して
第6章 自己表現と“癒し”―“臨生”芸術への試論
第7章 批評の対象としての廃校―廃校の風景をめぐって
第8章 まちづくりと「場所」―ベルク「風土論」からの接続
第9章 ナショナリズムの残余―佐野利器の「反美術的」職能観
第10章 法と芸術の交錯―映画「SHOAH」とアイヒマン裁判を通じて