内容説明
現代に生きるわたしたちは、ひとそれぞれの主観的な感覚や考えを持つ自由と引き替えに、共有する絶対的な真理を失い、猜疑と孤独に陥るしかないのか。カントは、人間の考える力を極限まで吟味し、絶対的な真理は知り得ないという「理性の限界」を証明した上で、人間に共通する〈普遍性〉を、「わたし」の主観の中に見出した。この「アンチノミー」「超越論的哲学」という方法に注目し、デカルトからアーレントまでの「主観」理解と照らしつつ、『純粋理性批判』をはじめ三批判書を、平易に読み解く。若き俊英が、等身大の「わたし」から説きおこす清新なカント入門。
目次
序章 “ひとそれぞれ”の時代のカント
第1章 近代哲学の「考える力」―合理論と経験論
第2章 理性の限界―『純粋理性批判』のアンチノミー
第3章 「わたし」のなかの普遍性―感性・悟性・理性
第4章 善と美の根拠を探る―『実践理性批判』と『判断力批判』
第5章 カントから考える―ヘーゲル、フッサール、ハイデガー、アーレント
終章 世界を信じるために
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
harass
68
先日読んだ高田明典の本の参考図書で挙げられていたカント入門書。三大批判書のエッセンスを平易に解説。竹田青嗣の弟子に当たる人らしい。カントの真善美と「神」の意味合いと限界、そしてその応用のヘーゲル、フッサール、アーレントまで。正直駆け足だったり煩雑な部分は端折っているがよくこの薄さで論じられると感心。カントの問題提議と解決法方のアイデアに驚くが、現代の〈ひとそれぞれ〉相対主義の時代でも応用できるよう、読み直してある。哲学マニアの自己満足だけでなく、哲学することの意味を初心者でも理解できる良書。おすすめ。2017/08/28
やまはるか
5
カントは道徳や価値に関わる哲学という先入観があってこれまで敬遠してきた。正命題と反対命題を立てるアンチノミーという手法は自分の中で検証しやすくて面白い。「実世界の戦いに敗れ、苦しい状態にはあっても、美的な世界はそれでもなおわたしたちの生をはげますものとして存在するし、存在しなければならない。」こういう考えが自分がカントを敬遠してきた理由だが、他者と話し合って美の普遍性を高めなければならないという。美は価値に関わる概念だからやはりそうかなとは思う。2019/12/10
田中AD
3
初めはスイスイ読めたのに道徳と美の章で止まる、我々が美を普遍的だと求めるのは面白いがカントは普遍性を求めすぎてる、普遍性が厳格で違和感を覚えそれで2週間止まる、そうしたらp186に普遍性を数学、幾何学のようなものだと書いてありようやく意味がわかった。哲学と数学の関係を知っているからすぐにわかったが、知らないとかなり不満に思ったに違いない。2018/02/10
クランチ
3
カント入門書として格好の教科書。カントの凄さを読者に納得させながらも、その欠点をも指摘して「世界を信じるために何をすればよいか」ということをきっちり書いている。下手な哲学の入門書より良いのではないか。2011/03/23
ミートボール
2
現代に生きる私たちの時代から「信じるための哲学」としてカントを理解する試み。「カントの主観の哲学が、主観のなかから<普遍的なもの>を取り出す方法であること・・・」という分かりやすい枠組みからカントを捉え<人それぞれ>の違いを大切にしすぎる世の中でいかにして他者と共に生きていくのかを模索していく。今の時代にカントを読むことの重要性を感じさせてくれる良著。近代思想の始まりから現代の思想家までの流れをカント哲学の視点から分かりやすくまとめている。判断力批判の位置付けの重要性もよくわかるように解説されている。2016/02/25