内容説明
幽晦との境界が―破れている。内部の薄明が昏黒に洩れている。ならばそこから夜が染みて来る。生まれてこのかた、わらったこともない生真面目な浪人、伊右衛門。疱瘡を病み、顔崩れても、凛として正しさを失わない女、岩―。江戸の闇に開く悪の華、怪談世界に異才が挑む。第25回泉鏡花文学賞受賞作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
テツ
21
京極夏彦による四谷怪談。伊右衛門と岩。互いに思い合い大切にしたいと願っている筈の相手とのほんの僅かなすれ違い。周囲の全てが狂っているこの世界で、誰も彼もが自分の欲や快楽を貪る醜い世界の中で、伊右衛門と岩が控えめに滲ませる心だけが美しい。生きるも同じ死ぬも同じ。全てに決着をつけ大切な相手に気づきようやく一緒になれた伊右衛門と彼を見送る又市の姿。完璧な純愛ラブストーリー。2018/10/27
あおさわ
19
不器用ですぎるほどに毅然としたお岩さんのなんと美しいことか。壮絶なラストに恐怖より涙しました。二人の愛は成就したと信じています。2010/09/27
星落秋風五丈原
15
長屋住まいの浪人・境野伊右衛門は御行の又市の斡旋で、御手先御鉄砲組同心・民谷又左衛門の娘・岩と夫婦になる。家を守るという父の命令もあり、岩も納得済みの縁組みであったが、互いを意識しすぎるあまり、その生活はうまくいかない。ある日、伊右衛門は与力の伊東喜兵衛に呼び出された。四谷怪談を下敷きにした岩と伊右衛門の純愛物語としても読める。2000/12/04
あここ
8
何でここまですれ違うかな…惹かれ合ってるのに嫌われてるってお互い思い込んでて。はがゆい。真っ直ぐで不器用で素直に表現できひん。同じすぎて合わへんってゆう切なさ。ここに諸悪の根元、喜兵衛が絡んでくるともう又市さんもどうも出来ひん。みんなが病んでる、みんなのドロドロが合わさって死人続出。真実を知ることは重要なのか。知らされて壊れてしもうたお岩さんのシーンが苦しかった。信じてきたものが全部揺らぐ、支えがなくなる。あぁ人ってこんななるんや。嘘でも自分を保てる何かが必要なんやろか。死なんと幸せになれへんなんて何か…2020/12/06
taka
6
再読。ホラーの「四谷怪談」がまさかのミステリー、純愛ラブストーリーとして生まれ変わった傑作。 後半が怒涛の展開。伏線の回収というミステリーとしてもすごい。解説にもあるように周りの騒々しさから対比されるように、あまり書かれてない伊右衛門とお岩の関係が清く美しく映る。そして、最後の章においても第三者からの目線で映し出される二人の姿は壮絶でした。 2017/01/15