内容説明
父が遺したアトリエ兼自宅で革製品の修理をして生計を立てている透子。十年前から止まっていた歯車が、婚約者だった男との再会によって動き出した。目を背けてきた過去と向き合う時、浮かび上がるのは「あの女」…彼女からすべてを奪った事件の真相を、アトリエに持ち込まれる品々にひそむ人間ドラマとともに描きだす。
著者等紹介
吉永南央[ヨシナガナオ]
1964年埼玉県生まれ。群馬県立女子大学卒業。2004年、「紅雲町のお草」で、第43回オール讀物推理小説新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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5 よういち
80
主人公の保井透子は、泣き父の後を継ぐ皮革製品修復の職人で、日々持ち込まれる思い出の品々を修復(リペア)している。ある日、元婚約者の敬史が家族を連れて街に戻ってきたことから話が動き出す。◆雰囲気からするとほのぼのノスタルジックな物語と思いきや、透子の心の奥には重厚過ぎる過去が影を落とす。透子は自分の人生をリペアできるのか・・・◆機械屋の世界に"イジリ壊す"という言葉がある。修理の手を入れ過ぎて修復どころか壊してしまうことである。透子がやったことはイジリ壊しじゃないだろうか。誰が幸せになったのか...2018/11/22
もりやまたけよし
31
南央さんのスタイルは、短編のチョットした謎解き。この本はそれを拡大コピーした感じ。登場人物のそれぞれ主観で心情描写しているので、いつもの感じと違う。2018/03/31
エドワード
20
もしも家族の中に悪魔がいたら?父の経営する鞄や靴の修理工房を継いだ透子には、母の里子が愛人と共謀した投資詐欺事件のために、婚約まで進んだ同級生の敬史と破談した過去がある。その敬史がなんと工房の真向いに越してきた。動揺する透子。過去の経緯が明示されず、徐々に明らかになる構成、なんともサスペンス劇場なお仕事小説だ。透子のタフさが際立つが、よく友人たちを振り回すものだネ。里子の行方が分らない不安感、敬史が優柔不断すぎ、妻の美冴の心も解らなくないが微妙だ。他人になりすます里子が一番恐い。リペアはダブルミーニング。2018/03/23
岡本匠
18
女性の革職人を主人公にした作品。かつて、婚約をしていた男が家族と共に自らの工房の前に引っ越してくる。彼とは、自分の母親が巻き起こしたある事件のために別れる事になった。その事件とは...映画「繕い裁つ人」の中谷美紀と似た部分を感じました。クールな女性職人という部分が一緒だからでしょうか。ただ、この小説の方が少し乾いた、ハードボイルド寄りではありますが。2016/03/03
菜の花畑
16
川沿いで革の修復を仕事としている透子。ある日、川向こうに10年前婚約者だったケイが家族と転勤して来た。そこから止まっていたような時間が流れ始める。人物の背景や過去の投資詐欺事件の詳細が小出しにされるため(意図してそうしていると思うが)最初は分かりにくい。透子の母と共謀の男が起こした事件のため別れざるを得なかった二人。そして、互いの執着と母の行方が周りを巻き込んで行く。思ったよりシビアな結末になったけれど、ちゃんと次の光は差してるんだね。風景描写がステキです。 2019/03/21