内容説明
誰もがデジタルに改宗するなかで私は最後に一人残った異端の徒のようになっていった。でも気にしなかった。いまのままで何の不満もないのにどうして変えなくちゃいけない?好むと好まざるとにかかわらず、我々は同じ過去を共有し、同じ未来を共有してもいる…。
著者等紹介
オースター,ポール[オースター,ポール][Auster,Paul]
1947年生まれ。大学卒業後、三年半ヨーロッパ各地を転々とし、さまざまな仕事に携わりながら翻訳、詩作を行う。1982年、初めての散文作品『孤独の発明』を発表。「ニューヨーク三部作」『ムーン・パレス』『偶然の音楽』など世界各国で愛読されている小説家
メッサー,サム[メッサー,サム][Messer,Sam]
1955年生まれ。主要作品はホイットニー美術館、メトロポリタン美術館などに所蔵されている。イェール大学美術学部で教鞭を執る
柴田元幸[シバタモトユキ]
1954年生まれ。現代アメリカ文学の名訳で知られる。東京大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
63
タイプライターが時代の遺物となって久しい。この本は、タイプライターでたくさんの書物を著してきたオースターとオリンピア・タイプライターとのむつまじい関係を描いている。サム・メッサーの絵は、タイプライターに顔があるかのように、様々な表情を見せる。痛めつけられて、すたれて、見捨てられてゆくタイプライターへの愛着が伝わってくる。2014/06/01
キジネコ
26
サム・メッサーの40枚の絵とポール・オースターの小文。作家の愛する道具オリンピア社製タイプライターはモノではなく 「わが」という尊称を冠する友人としての地位を築き デジタル化の大きな波をも ものともせず 約束された未来永劫の為のインクリボンも 周到に確保されています。多分 作家の最後の作品まで この道具から生み出されることになるのだろうと 想像できることが とても微笑ましい。作家の友人が描く 油彩と幾つかのイラストで構成された本書の味わいが オイラを幸福な気分にしてくれます。2013/08/16
ぼむ☆
25
オースターが友人から購入した西ドイツ製の中古タイプライターへの愛着を綴った一冊。オースターの素晴らしい作品は全てこのタイプライターから生まれる。しかしこのタイプライターに最初に惚れ込んだのは油絵画家の友人サム・メッサーであった。サムは遊びに来るたびにタイプライターを眺めて絵を描く。オースターがいない時でもだ。タイプライターへの愛を文章で綴ったオースターと、油絵という形にしたサム。文章だけでなく絵も本当に素晴らしい。その文章と絵が詰め込まれたこの本を柴田元幸氏が翻訳。なんて豪華なキャスティングなのであろう。2022/08/29
長谷川透
25
タイプライターと共に9400日を過ごしてきた。時の流れが変化を強いろうとも、私は我がタイプライターと共に生きて行く。わたしはフィクションを書く。書く中で私は意図せずとも、変わって行くのだろう。私の中の変化は、我がタイプライターに伝播するのかもしれない。キーを叩き、紙にタイプされる言葉と共に。我々は同じ過去を共有し、同じ未来を共有もしている……。好むと好まざるにかかわらず。私は書く。私の目の前にあるこいつはカタカタと音を立てる。いつもの聞き慣れた音楽を奏でる。こいつの声が涸れるまで、私はこいつと生きていく。2013/03/01
ウィズ
14
この絵本を読んでまずサム・メッサー氏の絵が好きになった。そしてこの絵本を読んでもともと好きだったポール・オースター氏のことが、ますます好きになってしまった。2015/04/28