内容説明
人類発祥の地、アフリカが出会った原始的神話を今に伝える民族、タイで訪れた麻薬療養所の壮絶な日々、小林秀雄、中原中也など影響を受けた文学者たちへの想い、そして日本の行く先まで―。移り行く日々の中で、知の巨人が残す日本へのメッセージ。世界的な免疫学者であり、当代随一のエッセイストが病に倒れる以前に綴った珠玉の随筆集。
目次
第1章 生命の木の下で(ドゴンへの道;メーコック・ファームの昼と夜)
第2章 日付けのない日記
第3章 青春の文学者たち(ぼくらの「アンクル」小林秀雄;中原中也の不在証明;やさしさの哲学;夢の正体;韓国と日本の伝統芸能;真贋;白洲さんにとっての近江)
著者等紹介
多田富雄[タダトミオ]
1934(昭和9)年、茨城県生れ。千葉大学医学部卒。東京大学名誉教授。免疫学者。’71年に、免疫反応を抑制するサプレッサーT細胞を発見し、世界の免疫学界に大きな影響を与えた。野口英世記念医学賞、朝日賞、エミール・フォン・ベーリング賞など受賞多数。’84年、文化功労者に選ばれる。能への造詣が深く、新作能も手がける。著書に『免疫の意味論』(大佛次郎賞)『生命の意味論』『独酌余滴』(日本エッセイスト・クラブ賞)『寡黙なる巨人』(小林秀雄賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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獺祭魚の食客@鯨鯢
79
世界的な免疫学者の多田さんが所収エッセイで次のように述べています。 『昔の子どもは空き地にある水溜りで泥んこになって遊んでいたが今はなくなった。こうして子供の環境がこの三十年程で急速に「無菌化」された。 人間の免疫系は何万年もかけて周囲の病原菌に抵抗するために進化してきたが、その敵を突然消え失せてしまった。 敵を見失った免疫系は、もともと無視してきた花粉や屋内の塵などに対し強力に抵抗するようになった。それがアレルギー症がふえた原因ではないか』と。 (原文から大幅に変わっています。) 2020/03/09
i-miya
38
(カバー) 人類発祥の地、アフリカ。原始的神話を今に伝える民族。タイで訪れた麻薬療養所の壮絶な日々。小林秀雄、中原中也、文学者への思い。知の巨人、日本へのメッセージ。世界的免疫学者。病に倒れる前。2011/06/29
Kikuyo
24
著名な免疫学者のエッセイ。「傷の癒えた村人たちに接することで、私自身のもっている傷の深さに気づいた」麻薬に侵された山岳民族の治療を行うことは、先進国の人間もまた癒えることなのだ。旅行記、エッセイ、能や文学者に関するものまであって、思いがけず味わいのある一冊に出会いました。2018/01/31
銀の鈴
19
「免疫の意味論」について、はるか以前に読んだことがあり、積読していた本書にようやく着手できました。生命への探求のみならず、旅にお能に文学等、文理一体となった知への渇望にただただ驚かされます。私は、物語に比べて、エッセイは心に残らない傾向にあるのですけれども、本書は違いそうです。2014/08/17
愛奈 穂佳(あいだ ほのか)
7
【ココロの琴線に触れたコトバ】蝉の声も鳥の声も太古のままに響いている。私は音の中に残されている「進化」に思いをはせた。その時赤ちゃんの泣き声が聞こえ、朝は人間たちのものとなった。2014/12/31