内容説明
雉猫に導かれて男女は出会った。男には妻と娘がいた。女には中学教師の夫がいた。貪り合う二人。これは愛なのか。夫の奇妙な性癖、近所の不気味な老人、理解不能な中学生たち。二人とともに景色も蠢く。どうしてもやめられなかった、どちらかの身が滅びるまでは―。男女それぞれの視点から同じ出来事を語り、嘘やすれ違う感情を重層的に描き出した、著者の新境地を示す恋愛長編。
著者等紹介
井上荒野[イノウエアレノ]
1961(昭和36)年東京生れ。成蹊大学文学部卒。’89(平成元)年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞を受賞。創作のかたわら、児童書の翻訳家としても活躍する。2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、’08年『切羽へ』で直木賞、’11年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞をそれぞれ受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ミカママ
396
荒野さんらしい、クールでドライな男女の語り口で一気に読ませられた。いわゆるW不倫なのだけれど、お互いの感情の動き、惹かれあっていく心情にあまり触れられてないのに、いつの間にか取り込まれてしまう。初対面でヤることを運命づけられた男女。ヤってヤってヤリまくることから始まる不幸。読後感はあまり良くないが、ラストの落ち着き方も、荒野さんならではの優しさなのだろう。2018/11/08
竹園和明
42
【再読】こんなに深い作品だったのか…。初読みの時は激しい不倫ドロドロ物語という印象が強烈だったけど、読み直してみたら主人公である知子と晩鳥の関係の裏で、知子と知子の夫、晩鳥と晩鳥の妻それぞれの、澱んだ関係性が浮かび上がって来た。こういう関係性の表現が、著者は非常に巧み。知子と晩鳥2人の関係が理解出来ない…などと切って捨てず、もうひとつの世界を読み解くべきだ。それにしても晩鳥は哀れな結末になってしまった。こうなった時、男はいつも敗残者だ。 2023/04/08
エドワード
22
同じ町に住む、知子と晩鳥。知子には中学校教師の夫がおり、晩鳥には妻とその中学校に通う娘がいる。雉猫のヨベルが迷い込んだことから出会う二人。二人の出会いから別れまでをそれぞれの視点から描く。言い訳ばかり並ぶ、不毛な逢いびき。安心できない。満足できない。人間、そういう時もあるよね。でも、二人の間には愛はあったの?知子は夫を、晩鳥は妻をつまらなく思っているが、果たしてそうなの?文楽にありそうな、いまいち共感できない心の姿。廃品回収に似せた呼び声が虚しく響く。恐らく井上荒野さんは愛の不毛を書きたかったに違いない。2018/01/13
みどり
17
男の人が女の人を抱いているときにこんなふうに思っているんだったら、そのことを女の人、大貫知子が最初から知っていたんなら、こんなふうにはならなかったのかもしれないなあ。不倫に関する話題やニュース、作品は食傷気味だけれど、作り上げられた世界のように甘いものではないのだろう。その点この本はリアルで、苦くて、読んでいるのが苦しかった。人は時間があると、ろくなことしないし考えない気がする。もちろんのんびりする時間は大事であるけれど、ある程度忙しくしていようと思う、そして法を犯すことをしてはいけない。2018/03/05
きのぴ
15
雉猫に導かれて出会った男女が不倫の関係に。お互い家庭があるのでW不倫。今まで読んだ井上さんの小説と比べると、少し退屈だった。知子と晩鳥の気持ちがよく分からないし、知子の夫も晩鳥の妻もよく分からない。小副川さんも子供たちもよく分からない。掴めない人だらけで、誰にも感情移入できなかった。最初と最後の廃品回収のアナウンス怖すぎた。 2021/08/15