感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
吉外武男
1
時代への反逆者をテーマにしたアンソロジー中にあって武田泰淳の「由井正雪の最期」が印象深い。浪人団を集め幕府転覆を企てた由井（比）正雪。その計画が露見し捕方に包囲された正雪ら一党の残されたわずかな時間を描く小品ながら、読み応え充分。謀叛の後ろ盾には紀州徳川家がついているという師・正雪の言葉を疑わない高弟たちのなか、ひとり疑義を呈する鵜野作兵衛。自刃の直前に正雪がかれを呼びつけ語る言葉は……。正雪はあくまで掴みどころなく、砂を噛むような後味が残るが、死を前にした者の微妙な人間心理を怜悧にとらえて切れ味鋭い。2018/06/30
