講談社文芸文庫
風景の向こうへ・物語の系譜―現代日本のエッセイ

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  • サイズ 文庫判/ページ数 367p/高さ 16cm
  • 商品コード 9784061983915
  • NDC分類 914.6
  • Cコード C0195

内容説明

風景の彼方に草木一本だに見つけられぬ熱砂があるのか、地の果てにはあの名づけられない森羅万象の空洞があるのか、読者と共に見定める覚悟を今、改めて確認する。韓国をめぐって書かれた表題作、たゆまず続けてきた佐藤春夫、折口信夫らの物語の解読の試み―。それらの一回目の報告、と著者自らが語る『地の果て 至上の時』に呼応する第三エッセイ集。

目次

風景の向こうへ 韓国の旅
物語が輪舞する
柄谷行人への手紙
物語の系譜(佐藤春夫;谷崎潤一郎;上田秋成;折口信夫;円地文子)

著者等紹介

中上健次[ナカガミケンジ]
1946・8・2~1992・8・12。小説家。和歌山県生まれ。新宮高校卒。14歳の時に生徒会誌に「帽子」を発表以来、詩、戯曲、小説を執筆。1976年、『岬』で第74回芥川賞、77年、『枯木灘』で毎日出版文化賞、芸術選奨文部大臣賞新人賞を受賞。アメリカ、熊野、ソウルを廻り旺盛な作家活動をくりひろげる。90年からは熊野大学を開講。ガンのため故郷新宮に戻り逝去
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感想・レビュー

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スミス市松

22
著者は言う。「我々は本当の人間になりたい、本当の自由で平等で、人を愛することができる、物を愛すことができる、そういう人間でありたいと思うんだけれども」――しかし〈いま・ここ〉には古えよりこの国を巣食ってきた強固な物語=法・制度があり、それに立ち向かってこなかった日本近代文学がある、と。佐藤春夫、谷崎潤一郎、上田秋成、折口信夫、円地文子。自らのオブセッションに限りなく近い視点から五者五様の“物語作家”たちが契った物語=法・制度との関係性を暴きつつ、人はいかに物語から自由になれるのか、著者は考え苦闘する。2015/05/24

ダージリン

3
中上健次が持つ怖さが随所に見られる。「紀州」などもそうだが、中上健次は小説以外のこういった文章の中で、却ってストレートに情念を表現しているように思える。差別と言ったことをキーワードに、どこか鬱屈した感情を交えつつ、戦慄を覚えるような深みへと突き進んでいく。その直覚が全て正しい訳でもないであろうが、深き闇へと到達していくかの如き射程が言い知れぬ恐ろしさを感じさせる。2018/05/20

 

3
「法・制度の作家谷崎潤一郎は近代文学唯一の差別主義者である。差別解放を唱える運動家らが何故この谷崎潤一郎の小説をズタズタに読み破らないのか不思議なほど谷崎は一貫して賤なるもの異形なるものに差別を抱いている。見るのもいやだという不快感である。『吉野葛』『蘆刈』の舞台になる土地が被差別部落とこすれあう事実を考えれば自明の事だ。谷崎は、差別、被差別を法・制度をいまひとつ輝かすものとして使っている。」2016/12/19

mstr_kk

3
自然や差別と芸能との関わりをめぐる考察「風景の向こうへ」と、法・制度としての物語をめぐる考察「物語の系譜」。たとえば後者の議論は、形式的にはけっこう素朴な疎外論であり(根源的な「交通」や「モノカタリ」が抑圧されて「物語」となる)、理論的に高度であるとはいえまい。前者も危険な本質主義だろう。しかし、本書の内容にじっくりつきあってゆけば、中上の思考がとおりいっぺんのものでないことはよく分かる。差別や物語の核心をえぐる、とんでもないテーゼが次々に出てくる様には、驚嘆するし感動する。2013/08/27

なめこ

2
日本的自然によって生み出される差別・被差別。その日本的自然をかたちづくる日本語によって書かれた文学は否応なく差別・被差別をはらむことになる。難解である。けれども立ち向かう意味のある壁だと思う。性を描く男の作家としての中上健次が、女の作家をどうみていていたのか、ということの、一端を垣間見ることができて、面白い。2014/11/10

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