内容説明
事実を人間はどう表現してきたかという事実―、芭蕉と杜甫、ボードレールの詩と「古今集」の短歌。司馬遷とアリストテレス。キリスト教、儒教、仏教、等々古今東西の文学と思想を、中国文学を比較の媒介とし、自由自在に解析する。生涯、孔子と杜甫を崇敬した類いまれな思索者の斬新かつ卓見豊かな文明と人間性へのエッセイ。
目次
他山石語（東方の詩のために；古典と現代；他山石語；断絶の文体 ほか）
森と海（虚構と事実―ガラス窓の象徴；マーラー「大地の歌」の原詩について ほか）
西方からの関心（詩人故居 ホイットマン・東海散士・ポウ；西方からの関心；ニュー・ヨーク雑記 ほか）
音容日遠（狩野先生と中国文学；天才汪洋の学；青木正児博士と私；高橋和巳哀辞；川端康成氏の人がら ほか）
詩に達詁無し
閑（老年；線装の本 ほか）
中国の知恵
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえ
7
「東方の文学、といってもインドはしばらく除外し…史記、万葉集、杜詩、古今集、蘇東坡の文章、芭蕉の俳句、みな虚構の文学ではない。むろん源氏物語、水滸伝以下、虚構の文学も、みのりをもつ。しかし文学史全体としては、虚構を必須としない。あるいは虚構を正統としない」「文学的真実は…事実を変形した虚構の中でこそはじめて語られる。そうした思想を、アリストテレスは、西方の文学史のはじめの時期に、強調している。ホーマーの叙事詩、アイスキュロスらの悲劇、アリストファネスの喜劇など、虚構の文学がすでにゆたかなみのりを見せた」2018/08/28
韓信
0
東西文学の比較やアメリカ滞在記など、中国文学に限らない広範な視野から綴られたエッセイ集。内容は多岐にわたるが、狩野直樹との思い出を綴る「狩野先生と中国文学」が、恩師への敬慕にあふれ、最後の一文に心揺さぶられる名編。そのほか、中文屋らしく線装本に親しんできたのに時代の流れで洋装本に傾いていくことへの当惑を綴る「線装の本」は、省スペースで検索に便利という利点に屈してしまう過程が、現代の電子書籍に対する自分の複雑な思いとみごとにオーバーラップしてしまった。やはり本の進化の方向性は省スペース化と検索性向上なんだな2022/09/25
