内容説明
文学も実人生も虚構であることに変わりはない。事実そのものがすでに操作されたものなのだ。私をひとつの現象と見なす考え方は、文学作品の質を、それが事実に基づくかいなかによって判断しようとする立場を無効にする…。「自我の崩壊」ということ自体が主題となった現代文学の困難を的確に解説、「現象としての自己」の様々なありようを、物語の終焉を体現する作家達を通して考察した第一評論集。
目次
批評、または私という現象
文学の終焉―自己表出の行方
芸術の転換、または方法としての演劇
大岡信、あるいは祝祭のための劇場
入沢康夫、あるいはなぜ詩は怒りか
谷川俊太郎と沈黙の神話
サイエンス・フィクション、または隠れたる神
筒井康隆と自意識の遊戯
金井美恵子、または物語の作者と作者の物語
那珂太郎と山口昌男、または祝祭としての虚無
修辞的なこだわり、または吉岡実への助走
小島信夫と田中小実昌、または反転する文学
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミツ
0
70年代後半の詩人や作家についての評論を集めた一冊。谷川俊太郎、筒井康隆、小林信夫を材料に自意識、私とは何であるかを明らかにしてゆく。その知識量や問題の切り口は鮮やかだが、いかんせん難解で読みにくい。再読が必要か。2009/01/12
ゆうき
0
筒井康隆の論考。虚構内存在など虚構性に寄せた文章は数あれど、現実が宙吊りになるなかで自意識の過剰さが浮き彫りになると指摘していたのが面白い。2023/01/14
bittersweet symphony
0
「私」が無根拠なものであることに固執するあまりそこから先に進めていないというのは、本文中にしきりに引用されている吉本隆明が切り開いていった地平をリアルタイムに体験していたであろうにしては、あまりに鈍感ではないか。個人的には、この世代の思想や批評を読むと逆説的に吉本の評価が上がっていくばかりなり。2020/12/14