出版社内容情報
科学者寺田寅彦(1878-1935)の随筆は,芸術感覚と科学精神との希有な結合から生まれ,それらが見事な調和をたもっている.しかも主題が人生であれ自然であれ,その語り口からはいつも温かい人間味が伝わってくる.
目次
鐘に釁る
北氷洋の氷の割れる音
鎖骨
火事教育
ニュース映画と新聞記事
自然界の縞模様
藤の実
銀座アルプス
コーヒー哲学序説
空想日録〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マッピー
9
最近読んだ夏目漱石の弟子(俳句の)で、中谷宇吉郎の師(物理の)である寺田寅彦の、晩年の随筆を集めたもの。編者の小宮豊隆も漱石の弟子でしたね。昭和8年から9年にかけて書かれた随筆ですが、私から見ると明治のにおいがかなり濃厚。ああ、戦前の昭和は、まだ明治がこんなにも近かったんだなあと思いました。失敗を恐れない人。人のためになってこその科学という信念の人。ものすごく防災の重要性を主張した人。頭の切れる、しかし心の柔らかな人だと思いました。 2018/01/30
壱萬弐仟縁
8
「科学と文学」の節(166頁~)。寺田先生は、院生の時、文学創作とも関わっていくことになった模様。作り出す。生み出す。こうした生みの苦しみ。女性的でもあり、いのちの誕生に出くわす科学。さきほども芸術家の創造を見たが、誰もやらないことへの未知との遭遇にはやってよかった、と言えることがたった一つでもあれば、それで満足の世界である。書き出して、あれはだめだ、これが足りない、といったことが同時進行していくことは、私も経験している(172頁)。いわば、積み木崩しの崩されるのと築くのでは、築くスピードが上回るべきだ。2013/08/02