内容説明
印刷術の発達とともに滅び、完全に忘れさられた「記憶術」の、ギリシアにおける発生からルネサンス期のヘルメス主義的、隠秘主義的展開に至る２千年の歴史と理論を丹念に掘り起した西欧思想史研究の記念碑的大著。
目次
第１章 古典的記憶術に関するラテン語三大文献
第２章 ギリシアにおける記憶術―記憶と霊魂
第３章 中世における記憶術
第４章 中世における記憶術とイメージの形成
第５章 記憶術論考
第６章 ルネサンスの記憶術―ジュリオ・カミッロの〈記憶の劇場〉
第７章 カミッロの〈劇場〉とヴェネツィア・ルネサンス
第８章 記憶術としてのルルの思想
第９章 ジョルダーノ・ブルーノ―『影』の秘術
第１０章 記憶術としてのラムス主義
第１１章 ジョルダーノ・ブルーノ―『秘印』の秘術
第１２章 ブルーノ記憶術とラムス記憶術の衝突
第１３章 ジョルダーノ・ブルーノ―記憶術に関する後期の諸作
第１４章 記憶術とブルーノのイタリア語対話篇
第１５章 ロバート・フラッドの〈劇場〉記憶術体系
第１６章 フラッドの〈記憶の劇場〉とグローブ座
第１７章 記憶術と科学的方法の成長
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
59
ギリシャ・ローマ時代に成立した記憶術の変容を追う本。紙が貴重だった時代の記憶力強化のための技術が、中世にスコラ哲学と結びついて複雑化した美徳や悪徳を記憶するための技に変化し、ルネサンスでは新プラトン主義に「積み込まれ」て世界や人間を把握するための方策を模索する〈魔術〉となる、という記憶術の歴史は西洋の精神史にもなっていて興味が尽きません。またこのルネサンス期の記憶術が「方法を探求するすべての試みを創出し」科学や数学の分野の発展を促したのだという指摘はとても刺激的で、様々に知的好奇心をそそられる一冊でした。2020/11/10
傘緑
43
「古代の記憶力は、古代世界の美術や建築という視覚芸術の反映でもある」「印刷術がでてくる前の時代では、訓練された記憶はきわめて重要であった…人間のもつ能力の中でも最も根源的で最も捉えがたいこの能力の訓練の歴史は、われわれを深海にまでひきずりこまずにはおかない」古代ギリシアの詩人シモニデスから新プラトン主義、中世スコラ神学、ジョルダーノ・ブルーノを経て(シャイクスピアや)ライプニッツへと到る、古代から連綿と流れ続けている秘術・魔術としての記憶術の歴史(その流れの果てが記憶と連想の場であるヴァールブルク図書館)2017/02/25
白義
9
記憶術というテーマから見たヨーロッパ精神史。現実、またイメージの中の「場」に記憶したい事柄を配置し、覚えるという古代の記憶術。それがアクィナスやブルーノにより、当時の哲学的世界観と結び付けられ、デカルトやライプニッツの科学的方法や、ヨーロッパ史に一貫して流れる魔術的な水脈を形成してきたことを論じている。特にブルーノの記憶術に詳細な検討が加えられ、そこからヒューマニズムのルネサンスの裏側にある、ヘルメス主義と新プラトン主義の秘教的な魔貌のルネサンスを照らし出していて面白い2013/03/19
roughfractus02
7
ギリシャのシモニデスが死者と彼らの席を対応させた逸話に発する記憶術は、ローマでは長引く弁論を記憶するために建築自身を複雑化させたと本書はいう。が、弁論術から倫理学へとその領域が移動する中世では、この術は寓意から美徳や悪徳に関する古典的規則を引き出す役割を担う。が、印刷文化の勃興するルネサンスでは、寓意は世俗化してアルファベット記号の組み合わせへ、建築も幾何学化して記憶の劇場へと変貌する(ルルスとカミッロ)。こうして、実体を離れ抽象化した記憶術がブルーノの魔術思考に流れ込む様を、著者は本書後半で詳細に記す。2019/04/13
大森黃馨
3
記憶術とは今日では現在は底辺的な技術とみなされがちであるがその実かつては人間の在り方や魂そして神にも関わってくるような非常に崇高にして神聖なそのあり方を巡って激しく討論されるようなものであったとしてその歴史や真髄を探らんと試みた書 また同書を読んでいて今の魔術や魔術師のイメージそれは15世紀くらいからの意外と新しいものではないのかと推測する 2022/11/07
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