内容説明
哲学者ニーチェをして「繰り返して読むに値する、ドイツ文学の宝である」といわしめた、19世紀オーストリアの作家シュティフター。その代表的短篇集『石さまざま』全訳版(上下2巻)をここに。下巻には、山村で暮らす幼い兄妹が大雪で道に迷いながらも、自然の驚異に護られて奇跡的に生還する「水晶」のほか、自然の化身とも見えるとび色の少女を主人公に、自然と人間界の交渉をテーマにした「白雲母」、ナポレオン戦争を背景に、戦争と子どもとがコントラストをなしている「石乳」を収録した。
著者等紹介
田口義弘[タグチヨシヒロ]
1933年平壌に生まれる。1956年京都大学文学部卒業。京都大学名誉教授。故人
松岡幸司[マツオカコウジ]
1965年東京都に生まれる。1988年信州大学農学部卒業、1992年信州大学人文学部卒業。信州大学助教授
青木三陽[アオキサンヨウ]
1975年長崎県に生まれる。2001年京都大学文学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程在籍中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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SIGERU
24
『水晶』は、ドイツ文学が誇る奇蹟の名品。雪山で道を見失い、幼い妹ザンナを庇って、必死に戻り道を探す兄コンラート。雪と氷に閉ざされた、白い世界。死のような静寂のさなか、「Ja Konrad(そうね、コンラート)」という妹の言葉だけが、くりかえし響く。兄の行動にひたすら信頼を寄せ、素直に返す答えが、たとえようもなく美しい。極寒に体力を奪われ、眠り込もうとする妹。お祖母さんが持たせてくれた濃くて熱いコーヒーが二人を救ったのも、神意のなせる業か。新訳による再読は、色褪せることなき凛冽な感動をもたらしてくれた。2022/02/25
Aya
4
読み進めるうちに、また静かな世界に引き込まれました。「水晶」で子供たちが迷い込んだ、白い静寂の世界とこの世のどこにもないような青の洞窟、氷原の緑…と、地形や風景の描写に加え、静寂の中で変化していく色の世界を堪能しました。(下)巻では、子供の持つ純粋さや直向きさがテーマとなっていますが、「白雲母」だけはこれまでとは違って、自然と人間界の交渉がテーマとなっていて、ちょっと意外な結末でした。2014/07/08
こぐま
4
自然描写があまりに美しい。ガラスに光を当て映し出される鮮やかな透明の世界に引き込まれたような感覚に陥ってしまう。雪山で遭難してしまった子どもたちの見る風景はまったくの白であるはずなのに、緑や青、黒く尖った氷、豊かな色彩で溢れている。自然が舞い、生きているような表現は、空想で描けるものではない。シュティフターは自然を観察し、共に生き、人間に及ぼす穏やかな影響を深く感ずることができる人であったのだと思う。2012/12/07
nekotennperu
1
小学生の頃でしたか…。児童文学全集ドイツ編で読んで懐かしくてまた手に取った本。「水晶」だけ、情景と会話を覚えていました。(本当は、花崗岩も読んでいたはずなのですが記憶がなくて。今回、読んで新鮮でした。) シュティフターが住んでいた南ボヘミアの小さな都市の周辺が舞台なのでしょうか。今ではオーストリア領なのだそうです。 「石さまざま」では、小説のタイトルに石の名前がつけられています。 「水晶」とは、高い山々の山頂の、永久に消えることのない煌めく青色や緑色の氷原をさしているのでしょうか。それとも、変わることの2021/02/06
羊co.
0
なせだかもうどうしようもなく、水晶が好きだ。幾度でも読み返したくなって、幾度でも読み返してしまう。2017/02/18