沖縄同時代史 〈第1巻〉 世替わりの渦のなかで (新装版)

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ B6判/ページ数 230p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784773628005
  • NDC分類 219.9
  • Cコード C0331

出版社内容情報

沖縄戦後史の研究者・新崎盛暉沖縄大学教授の著作集第1巻。
【内容】崩壊する沖縄/八重山における戦後最初のメーデー/問われる真の「革新」/地域運動を担う青年たち/中国で沖縄を考える/皇太子来沖をめぐって/韓国から働きにくる人たち/革新勢力とは何なのか/活字文化にも独自性/八重山開拓と台湾農民/琉球弧の住民運動/沖縄と大学/軍用地をめぐる諸問題/奄美の石油基地問題/苦悩する反戦地主会 ほか




まえがき

[I]一九七三年
崩壊する沖縄

[II]一九七四年
八重山における戦後最初のメーデー
石油基地反対運動の持つ意味

[III]一九七五年
問われる真の「革新」
育ち始めた労農共闘
地域運動を担う青年たち
大正期沖縄青年の軌跡
中国で沖縄を考える
風化の季節のなかで
皇太子来沖をめぐって
潜在化している矛盾が表面化するとき
韓国から働きにくる人たち
革新勢力とは何なのか
活字文化にも独自性
折り返し点の海洋博を見て
八重山開拓と台湾農民

[IV]一九七六年
琉球弧の住民運動
新しい芽
沖縄と大学
沖縄革新最後の切り札
激変する教育環境
復帰四周年の時点で
ある僻村の現代史
多難な平良県政
離島・歴史・文化
軍用地をめぐる諸問題
喜瀬武原と刑特法
問われる振興開発計画
“ロッキード”への違和感

[V]一九七七年
独自文化論への反省
軍票B円をめぐる一つのドラマ
津堅島で考えたこと
基地確保新法案のねらうもの
沖縄と近代――地域社会構想をめぐる問題
自立への遠い道
革新県政とは何か
地籍法で顕在化した沖

■まえがき

 一九七二年五月十五日、沖縄は日本になった。戦後二七年にわたる米軍支配の時代に終止符が打たれたのである。沖縄は、アメリカ世(ユー)に別れを告げ、ヤマトの世(ユー)を迎えることになった。

 「平和憲法下への復帰」を求め続けてきた沖縄の民衆が、ヤマトの世に期待したものは、「核も基地もない平和で豊かな沖縄県」であった。しかし、ベトナム戦争の泥沼に足をとられた超大国アメリカと、経済大国から軍事大国への上昇志向をあらわにしつつあった日本が沖縄返還交渉において追求した目標は、沖縄の軍事的有効利用を核とする同盟関係の再編強化であった。復帰後二〇年を経てもなお、県土面積の一一%、沖縄(本)島の二○%を占める米軍用地の存在がこのことを如実に物語っている。簡単な年表を一瞥しただけでも、連続的に生起する基地をめぐるトラブルや軍事的動きが沖縄現代史の大きな特徴をなしていることに、改めて気づかされる。

 核も基地もない平和な沖縄を求める民衆の願望と、日米軍事同盟の再編強化をめざす政策の間に妥協・調和の余地はない。だが、民衆の、というよりも復帰運動を担ってきた革新勢力の豊かな沖縄県構想(あるいは幻想)と政府のである。それは果てしない試行錯誤の過程でもあるのだが……。

 一方、沖縄が日本に復帰して以後の数年、世界情勢も大きく変化した。戦後世界政治の枠組みを根底から転換させるような米中接近に付随するかたちで日中国交回復が実現するのは、沖縄返還に後れること約四か月であった。中国が、沖縄の七二年返還を決めた六九年十一月の日米共同声明(佐藤・ニクソン共同声明)を、日本軍国主義の復活と激しく非難していたのを考えると、隔世の感があった。ベトナム戦争停戦からベトナム統一の実現もこの時期である。わたしは、サイゴン解放のニュースを北京で聞いた。

 七三年十月の第四次中東戦争は、いわゆるオイル・ショックを引き起こすが、それは、石油戦略を駆使したアラブ民族主義の復権を示すものであり、天然資源に対する恒久主権を主張するラテンアメリカ諸国の動きなどとも連動し合いながら、世界政治の上に第三世界が大きく浮上してきたことを意味していた。PLOがパレスチナ人民代表として国連総会に招請されたのも、このような状況を背景としていた。

 他方、朝鮮半島では、南北共同管理地区における米兵の死亡事件(板門店事件)などがこの地域における厳しいあった。

 この年一月からわたしは『沖縄タイムス』紙上で「試論・沖縄戦後史」というタイトルの下に、米軍支配下の沖縄の歴史を総括する作業をすすめていた。二○ 六回にわたった連載の約三分の二が、後に日本評論社から『戦後沖縄史』(一九七八年)として出版された。それをさらにコンパクトな通史的記述に整理したものが『沖縄戦後史』(中野好夫と共著、岩波新書、一九七六年)である。

 一方、沖縄移住とほとんど同時に巻き込まれたのが、というよりも沖縄に移り住む以前から気がかりだった大きな問題の一つがCTS問題である。わたしたちは、七四年九月「CTS阻止闘争を拡げる会」を結成し、七七年七月からは、季刊の小冊子『琉球弧の住民運動』を刊行し始めた。

 このようにして沖縄での生活を始めたわたしに、当時、毎日新聞社の学芸部にいた今田好彦氏(現東洋大学教授)が、毎月一回定期的に「沖縄からの報告」を送ることをすすめてくれた。こうして七五年一月から七七年十二月まで、『毎日新聞』に掲載された文章を主題別に構成し直し、いくつかの関連する文章を加えた『沖縄・世替わりの渦の中で』(毎日新聞社)が出版されたのは、七八年春のことである。
一九九二年一月

沖縄戦後史の研究者・新崎盛暉沖縄大学教授の著作集第1巻。「復帰」5年間に何が変わり、何が変わらなかったのか。