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バルカンを知るための65章

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  • サイズ B6判/ページ数 355p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784750320908
  • NDC分類 302.39
  • Cコード C0336

出版社内容情報

混乱と紛争を繰り返す激動のバルカン。しかし多くの民族が集まるこの地には豊かな歴史や文化がある。国を超えた「地域としてのバルカン」の共通性と多様性を紹介し、過去の紛争の経験から生まれてきた、民族共生の地としてのバルカンの今後のあり方を考える。

はじめに
1 歴史から
第1章 神話化される中世のバルカン王国――生き続けるナショナリズム
第2章 歴史と口承文芸――今に生きるコソヴォ史観
第3章 ドラキュラのふるさと――ヴラド串刺公と吸血鬼伝説
第4章 柔らかな専制――オスマン帝国の統治と宗教
第5章 地方の名望家アーヤーン――バルカンの地域権力体現者
第6章 匪賊のネットワーク――クレフテスの理想と現実
第7章 「東方問題」とバルカン――国際関係の中の独立運動
第8章 「マケドニアに自治を」――VMROとイリンデン蜂起
第9章 オスマンの遺産をめぐって――バルカン戦争
第10章 さまざまな人の移動――バルカンにおける移民・難民
第11章 バルカン連邦構想の系譜――相克を超える協調の動き
第12章 抵抗運動の中の内戦――バルカンにおける第二次世界大戦
第13章 ギリシア内戦と冷戦――西側陣営の「飛び地」ギリシア
第14章 庶民の知恵「居酒屋政治」――社会主義と小話
第15章 ユーゴスラヴィア紛争と暴力――なお残る火種
2 都市めぐり
第16章 ユダヤ人の町――テッサロニキとサラエヴォ
第17章 世界遺産の中世都市――ドゥブロヴニクとコトル第32章 深淵なる森に覆われた秘境の地――ブコヴィナ
第33章 黒海沿岸の文明の十字路――ドブロジャ
4 暮らしと社会
第34章 家族とザドルガ――バルカンを貫く家父長制
第35章 ジェンダーから見る社会――体制の変化が男と女に与える影響
第36章 「伝統」の継承者――バルカン農民のイメージ
第37章 羊飼いの暮らし――移動する人びとと近代国家
第38章 クムとクムストヴォ――血を超える絆
第39章 ギリシア移民の歴史と現在――ディアスポラ
第40章 自然と折り合い自由を謳歌する人びと――ロマの天地
第41章 ドナウ・デルタに暮らす人びと――漁労の民リポヴァン人はスラヴ系旧教徒
第42章 聖山アトスと修道士――神と暮らす男たち
第43章 さまざまなムスリムの暮らし――地域社会の中の共生
5 フォークロア
第44章 春が訪れる三月――マルツィショールとマルテニツァ
第45章 結婚式と葬式――輪舞と泣き歌
第46章 スラーヴァと「名の日」――聖者と祝祭
第47章 遊び――儀礼の中の遊戯、日常の遊び
第48章 結婚儀礼と悪魔払いの舞踊カルシュ――バルカンの踊り
6 言葉
第49章62章 バルカン・サッカー今昔物語――東欧革命がサッカー界にもたらしたもの
9 世界の中で
第63章 ヨーロッパ統合とバルカン――取り残される「西バルカン」
第64章 歴史教育から見た和解の試み――国民史を超えられるか
第65章 日本とバルカン――「人間の安全保障」の考えを生かして
【コラム1】セルビア南部ヤシュニヤ村 聖ヨハネ修道院聖堂の壁画の調査
【コラム2】ユーゴスラヴィア紛争とNGOの活動
【コラム3】ロマ・ミュージックの光景 グチャでのブラスバンド・フェスティバル
【コラム4】バルカン・サッカーへの誘(いざな)い
【コラム5】一〇年目を迎えるリュブリャナ大学の日本研究
参考文献案内

はじめに
 日本の面積の二倍ほどしかないバルカン半島には、現在、九カ国がひしめき合っている。一九九一年から九二年にかけて、旧ユーゴスラヴィア連邦が解体した結果、それまでの五カ国からいっきに九カ国に増加した。セルビア・モンテネグロはここ一、二年のうちにセルビアとモンテネグロに分離し、さらにセルビアからコソヴォが独立しかねない情勢にあるので、バルカン半島の国の数はまだ増えることになるかもしれない。二〇〇四年にEUの大幅な東方拡大が実現し、ヨーロッパの統合過程が大きく進展していることを考えると、ヨーロッパの一地域にもかかわらず、バルカンでは状況が大きく異なっていることがわかる。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチア、マケドニア、スロヴェニアの四カ国は、旧ユーゴスラヴィアの解体にともなって建国された新しい国家なのである。
 このような地域にあって、本書が対象とするのは現在の国でいえば巻頭の各国データにある九カ国のうち、北西部に位置するスロヴェニアを除く八カ国である。バルカンとは歴史的にビザンツ帝国とオスマン帝国に支配された地域と考えるので、神聖ローマ帝国の支配下に長く置かれたスロヴェニアはこの地域に含まれない。しイメージは決して好ましいものではなかった。紛争が一段落してしまうと、バルカンへの関心は潮が引くように薄まり、好ましくないイメージだけが残ってしまった。今こそ、バルカンは紛争地域といったステレオタイプな見方を考え直してみる絶好の機会のように思われる。本書を通じて、国民国家の枠を越えたバルカンという地域の特徴や面白さを読み取ってもらえると幸いである。
 執筆者には新進気鋭の研究者に多数加わってもらったが、いずれも豊富な現地体験を持っているだけでなく、バルカン諸国の現地語を駆使してそれぞれの国の事情にも精通している。わが国において、ようやくバルカン地域研究を共同で進めてゆける条件がそろいつつある。本書がこれからバルカン地域研究を志そうとする若い人たちに知的刺激を与え、バルカン地域研究がさらに進展することを願ってやまない。それだけでなく、バルカン諸国を訪れてみようと考えている人たちのガイドブックとして読まれることがあれば、これに勝る喜びはない。(後略)

目次

1 歴史から
2 都市めぐり
3 民族を超える、国を超える
4 暮らしと社会
5 フォークロア
6 言葉
7 食文化
8 文化とスポーツ
9 世界の中で

著者等紹介

柴宜弘[シバノブヒロ]
1946年東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科西洋史学博士課程修了。1975~77年、ベオグラード大学哲学部歴史学科留学。敬愛大学経済学部、東京大学教養学部を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授。専攻は東欧地域研究、バルカン近現代史
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