内容説明
多様な民族と文化をうちに孕んだハプスブルク帝国。起源を十世紀に遡るヨーロッパの大帝国は、近代国家へと脱皮する過程で、国家と民族のはざまに苦悩し、アウスグライヒ体制という民族協調のかたちを生みだした。その姿は、民族対立に揺れる現在の世界に、大きな示唆を与えてくれるであろう。帝国の終焉にいたる近代ハプスブルクの歴史を明晰に描く。
目次
ハプスブルク帝国
国家と民族のはざまで
近代国家への道
国法と民族と
アウスグライヒ体制
ターフェのオーストリア、ティサのハンガリー
大衆政党の時代
民族の比例代表制
第一次世界大戦と崩壊
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
組織液
10
ハプスブルクやオーストリア関連はそれなりに読んだりしてたので、今更リブレットって手遅れ感もありましたが読んでみました。いわゆる二重帝国の歴史を中心に扱ってます。オーストリアの普通平等選挙法の成立にロシアのドゥーマ開設があったことなどは勉強になりましたね。にしても相変わらずこれまとめるの無理でしょ…感が凄い() オーストリア側のアウスグライヒの認識から、ナショナリズムを自分らのアイデンティティーとしても最後まで認識できず、結果として諸民族のナショナリズムにも無関心だったんだなと思いましたね。2021/10/02
MUNEKAZ
6
「アウグスライヒ」後、オーストリア=ハンガリー帝国時代に絞った内容。様々な民族がせめぎあい自己主張する中で、なんとか帝国としての統一を保とうと努力するオーストリア政府の姿は、お隣のオスマン帝国末期の姿とも重なる。またそんなオーストリア側とは対照的に、強権的な自民族優遇政策を進めるハンガリー政府の姿も印象的。結局どちらの政府のやり方も破綻するわけだが、多民族を抱えた国家がどういう道を選択するのかの良い例になっていると思う。2017/07/10
バルジ
4
近代のハプスブルク帝国を「民族」という観点から簡便に論じる。特に印象的なのはドイツ系を軸とするオーストリアに対し終始高い民族意識を持ち容易に服さないハンガリーの存在である。そんなハンガリーであるが彼らもまたハンガリー領内の少数派を抑圧しており、そうした「二重」構造がハプスブルク帝国に存在していた。また職能別の議会制度から普通選挙制への移行はまさに革命的とも言える。飴細工のような繊細な政治技術によって支えられた帝国の統治体制であるが、その繊細さは国家総力戦の下では崩れ去る他無かったように思われる。2021/02/07
紫
3
ハプスブルク王朝の通史をおさらいしておこうか……と本書を手に取ったところ、読んでびっくり! 王朝の成立やマリア=テレジアの全盛時代はさらっと流してしまい、ナポレオン戦争以後のオーストリア帝国末期の政治史が主題の一冊であります。世界帝国の栄光も過去の話、ドイツ世界の盟主の地位から脱落して、ヨーロッパ周辺部の多民族国家として生きる道を模索するオーストリア帝国。平時には絶妙なバランスを保持して栄えていた多民族国家の政治体制が、戦時になると途端にもろくも自壊していくさまはとても傷ましい。星3つ。2022/02/02
じょあん
2
アウスグライヒ後を主に扱う。そこに至るまでのハプスブルク君主国の成り立ちも簡略に述べる。アウスグライヒとはなんだったのか。その体制はどのように推移したのか。「民族」という概念が熱を帯びていく中、多民族国家としてハプスブルク君主国がどのように現実に対応したのか……コンパクトにまとまっていて短時間で読めるのが良い。アウスグライヒ以前や帝国崩壊後までを知りたい場合は、岩﨑周一氏による講談社現代新書『ハプスブルク帝国』を読むとよいだろう。岩﨑氏の著作はより近年に出ているため、新しい研究の成果が反映されている。2021/01/28