内容説明
宗教改革史の研究は、歴史的事実の「記憶」と「忘却」の選択をめぐって、「宗教」にたいする相異なる―そして時には相容れない―さまざまな立場からなされた言説間の緊張関係のなかで営まれてきた。本書は、ドイツ宗教改革五〇〇周年を記念し、これまで語り継がれてきたこと、抹消されてきたこと、そして記憶の回復の対象となるべきことを総点検し、多彩な視点から宗教改革史を語りなおす試みである。
目次
記憶と忘却の五〇〇年
第1部 語りなおす宗教改革(マルティン・ルターの宗教改革―実像と虚像;カトリック世界としての一六世紀ドイツ―信仰と行い;三つのプロテスタント―ルター派・西南ドイツ派・スイス改革派;宗教改革の磁場―都市と農村;宗教改革はイタリアに伝わったか―ルターとアルプス以南の世界;カルヴァン以前のフランス宗教改革)
第2部 変化するキリスト教世界(一六一七年のドイツ―宗教改革から一〇〇年;対抗宗教改革―イエズス会劇が映すもの;魔女迫害と「神罰」―プロテスタントとカトリック;神聖ローマ帝国の多宗派化と三十年戦争―「神の帝国」と共存の政治学;フッガー家の人びと―二宗派併存年に生きて;宗教改革急進派―記憶の回復と二一世紀の和解)
附論 日本のドイツ宗教改革史研究―過去・現在・未来
著者等紹介
踊共二[オドリトモジ]
1960年生まれ。1991年早稲田大学大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。武蔵大学人文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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中村禎史
1
宗教改革から500年、今まであまり語られてこなかった側面に光を当てる。 1517年にヴィテンベルク城教会扉に95か条の論題をルターが張り出したと言う話はルターの死後メランヒトンが語ったもので史実か否か未確定。実はこのイメージの定着には、1617年「宗教改革100周年」時作成の版画が大きく貢献しており、それは当時のプロテスタント諸侯内の勢力争いの一環であったと言う話や、キリシタン大名有馬晴信の死がイエズス会劇としてドイツに伝えられていたと言う話、再洗礼派に対する迫害と和解の歴史など、大変示唆に富む論文集。2018/03/23