感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
印度 洋一郎
3
幕末を琉球王国の視点から見つめた興味深い歴史小説。無位無官の通詞から、宮廷の高官に上り詰めた、実在の人物である牧志朝忠を主人公に、薩摩、清国、来訪する欧米との間で危うい独立を守るために手練手管を講じる琉球を描いている。ここに登場する琉球は列強の被害者というよりも、勢力の間でふわふわと生き残ろうとする狡猾さを持つ勢力であり、同時その内部に旧守派と牧志のような開明派との抗争をも抱え込む病理もあった。牧志は祖国に理解者を見出せず、薩摩の島津斉彬を崇敬し、近代化を指向するがその道は琉球にとって滅亡の道でもあった2016/12/28
Mamoru Mizoi
0
手にするまで小説だとは思わなかった。清、薩摩の間で翻弄された琉球王朝の晩年を描いた作品。初読からずいぶん時間を空けての再読となった。 作中、薩摩に加担しながら、王府内での地位を固める官吏の挫折、非業の死が描かれる。大国の間を彷徨う「事大」の危うさを改めて考える一方、米国一辺倒を是とする今の日本の危うさも感じる。 寄らば大樹の陰、でななく、是々非々を貫く立ち位置、哲学、外交を持たないと、日本という国も、結局は風向き一つに翻弄され続ける境遇から抜け出すことはできないのだろう。2017/06/16