内容説明
第一次大戦中のある日曜日、戦場で5人のフランス兵が処刑された。婚約者を失ったマチルドは、事の真相を知ろうと調査を始める。その日何があったのか?生存者がいるという噂の真偽は?隠された真実の断片がジグソー・パズルのピースのように一つ一つ見事にはめ込まれていく。鬼才ジャプリゾが比類のない緻密な構成力で織り上げた情感溢れる傑作!アンテラリエ賞受賞作。
著者等紹介
田部武光[タナベタケミツ]
1944年生まれ。早稲田大学仏文科卒。文教大学教授
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感想・レビュー
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miri
43
舞台は第一次大戦、フランス。五人の兵士が塹壕に放り込まれ死亡。フィアンセのマチルドが死の真相を調査。1991年初版。現代の貞操観念と1910年代のフランスの感覚が異なっていることを考慮しても、死の状況を明らかにしたいという情熱は愛情なのだろうかと考える。細部の細部まで追求し尽くす職人めいたものが愛情表現だとすると、世の中は広く知らないことは沢山あるのだと思わされた。2024/02/07
yumiko
34
あの時戦場では何が起こっていたのか…一人の女性の熱い想いが、封印されかけたある真実を明らかにしていく。主人公マチルドが一つ一つ解きほぐしていくのは、亡くなった婚約者の姿だけではなく、共に戦った兵士達、残された家族、友人達の人生。第一次大戦を描いた作品を読むのは始めて。それでも人と人とが殺し合い、多くの苦しみと悲しみを生む構図は何も変わらない。人類はなぜ同じことを同じように繰り返すのかただ虚しさが残る。声高に叫ぶことなく、美しい文章で戦争の残す傷跡を描き出したジャプリゾの秀作。2015/08/12
ネコベス
26
第一次大戦中自分で手を撃ち負傷による除隊を図った五人のフランス兵は手を縛られたまま塹壕から危険な中間地帯へと押し出された。五人の内の一人マネクの婚約者マチルドは戦場でマネクに何があったのか真実を求めて調査を始める。車椅子に乗るマチルドが陽気かつ気丈に一縷の望みをかけてマネクの痕跡を追う姿は胸を打つ。結末は想像しやすいが、ドラマチックな展開に若いマネクとマチルドの瑞々しい恋愛模様や脇を固める個性豊かな人物造形も巧み。重厚な物語ながら楽しく読めた。2018/12/02
藤月はな(灯れ松明の火)
17
近くで砲弾が炸裂し、目の前で友の血を浴びたことによるトラウマに苦しみ、帰りたがっていた婚約者が銃殺されたという知らせが届いた。後に後先がない男から事実の一端を聞かされたマチルダは何があったのか調査を始まる。関係者や親切で下心のある人々の証言を手掛かりから事実を明らかにしていくマチルダ。そこから浮かび上がってくるのは戦争が人間や関係者に与える深い疵と奪い去る者、それでも一人の人間が「大勢の内の一人」ではなくて「自分」として生きていたという事実。あの懇願にその事実が籠められていて祈りたくなります。2013/04/10
ブラックジャケット
15
第一次大戦を題材にした歴史恋愛小説。実話があったのだろうか。果てしない地獄の塹壕戦に、仏軍では数十人の兵士が自分の手のひらを撃ち抜くという不祥事が同時多発で起きた。ペタン将軍は許さず、軍法会議では死刑。最前線では中間地帯に兵士を置き去りにすることで独軍処理の死刑となる。最年少のマネクを含めた五人の兵士が中間地帯へ。それなりの活躍もするが全員戦死。地元の婚約者マチルドはそれを信ぜず、独自に調査を始める。運命の悪戯は五人に収まらず、戦場の悲喜劇に揺さぶられる。生き残った者の戦後は重い。マチルドにも辛く重い。 2021/04/09