内容説明
懐かしい町「月舟町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりなつむじ風食堂。無口な店主、月舟アパートメントに住んでいる「雨降り先生」、古本屋の「デニーロの親方」、イルクーツクに行きたい果物屋主人、不思議な帽子屋・桜田さん、背の高い舞台女優・奈々津さん。食堂に集う人々が織りなす、懐かしくも清々しい物語。クラフト・エヴィング商會の物語作家による長編小説。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京生まれ。1998年より、パートナーの吉田浩美とともに、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作および装幀の仕事を続けてきた。2001年、講談社出版文化賞・ブックデザイン賞を受賞。また、同商會の活動とは別に小説作品を発表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
876
黄昏から夜のしじまへと向かう時間。そして空間は、どことも知れぬ月舟町。どこか懐かしさの漂う街だ。豆腐屋さんがあったりもするけれど、それはどこかパリの下町―そう例えばモンパルナス界隈を想わせたりもする。あるいは、「あとがき」に出てくるリスボンの寂しさも似あうかも知れない。物語に大きな起伏のないところもいい。恋だって、そのほんの入り口まで。小説の中の色彩は終始モノトーンだ。珈琲の香りと、微かにクロケットの匂いはあるが、ここには音がない。静かな静かな界隈なのだ。たまさかに吹くつむじ風は、読者をも消滅へと誘う。2015/06/30
へくとぱすかる
558
街の中の小食堂に集まる人々の、ちょっとした出来事、心のさざ波。クラフトエヴィング商会らしく、悲壮感のない、どこか人工的な雰囲気につつまれて、物語というより日常の風景を切り取った作品。深刻な、文学文学した(?)小説世界からは、遠く切り離された、星新一や別役実の作品に通じるような世界を感じる。長編だけど連作短編として気楽に読んで、しかし心に沁みた。2019/05/20
ダリヤ
376
つむじかぜにのって、しょくどうにあつまるひとびとがかわす、かいわ。くろけっと、えすぷれっそ、おれんじ、てじな。こころがあたたまる、そんなおはなしたち。とうがらしのふるほんをかうときのおはなしがとてもすきで、なんどもよみかえしてしまいました。2011/06/14
seacalf
353
『あなたはまだこの面白い小説を知らない』青山ブックセンター六本木店で、三年連続、すべての本の売り上げ第一位。この文庫本には、そんな帯がついていた。ミーハーな自分はテンションが上がるではないか。クラフト・エヴィング商會の人なのでデザイン性が強く、良くも悪くも軽やか。お気に入りになりそうな可愛いらしい人々が登場し、さらっと読めるので癒し効果は高め。個人的には「月舟町」より「月光町」の方が数倍魅力的かな。それにしても、この作品が三年連続売り上げ一位???うむむ。2017/03/28
あや
331
吉田篤弘さんという作家さんと出会った運命の作品。何ともいえない世界観に引き込まれあっという間に読了。暖かみのある文章といい、文字の雰囲気に魅了されました。2015/07/05