内容説明
著者は二つの問いを立てた。「第一に、なぜ祭司は前任者を殺さなければならないのか?そして第二、なぜ殺す前に、“黄金の枝”を折り取らなければならないのか?」森の聖なる王、樹木崇拝、王と祭司のタブー、王殺し、スケープゴート、外在魂…大きな迂回とおびただしい事例の枚挙を経て、探索行は謎の核心に迫る。答えはある意味であっけないが、モティーフは素朴ではなかった。ロバートソン・スミスのセム族宗教史に多くを負いながら、それと微妙な距離をとると同時に、ルナンへの傾倒を韜晦してやまないフレイザー。本書を手の込んだ文化相対主義的キリスト教起源史と読むこともできる。さて、再び、「金枝」とは何か?初版完訳、全二巻完結。
目次
第3章 神殺し(承前)(動物としての穀物霊;神を食すること;神聖な動物を殺すこと;害悪の転移;害悪の追放 ほか)
第4章 金枝(天と地の間;バルドル;民話における外在の魂;習俗における外在の魂;結び)
補遺 初収穫の奉納
著者等紹介
フレイザー,ジェイムズ・ジョージ[フレイザー,ジェイムズジョージ][Frazer,James George]
1854‐1941年。スコットランド生れの人類学者。グラスゴー大学卒業後、ケンブリッジのトリニティ・カレッジに進み、リヴァプール大学教授、トリニティ・カレッジ教授を歴任し、1914年ナイトに叙任
吉川信[キッカワシン]
1960年生れ。中央大学大学院博士課程退学。和光大学助教授
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
47
膨大な事例を越えてアリキアの森を巡る謎に近づいてゆくのは何と心躍る体験だったことでしょう。殺される聖なる王、生贄、聖餐、スケープゴート、そして魂の問題…。実際、謎を巡って張りめぐらされたたくさんの事例と、それに関する様々な考察に迷いかけなかったと言うと嘘になるのですが。でもこの本のなかで言うように儀式が神話を生むのだとするならば、この本もアリキアの森の儀式から生みだされた新たな神話だったに違いなく、自分は作者の「黄金色に輝く想像力」に覆われた神話を堪能したのだと思います、その「夢のようなヴィジョン」を。2017/09/28
zirou1984
44
上下巻1000ページにも及ぶ本書を通読した後に再度1章1節に立ち返ると、これまで挙げられてきた膨大な事例は全て円環するかのごとく最初の疑問に結びついていた。個人的には前任者の殺害、外在する魂の象徴という共通点で火の鳥・異形編を思い起こさずにはいられない。無数に例示される風習・儀礼の数々はその一つひとつが金枝篇という書物に宿るヤドリギであり、それは次なる物語を生み出す根幹となる。物語が儀式を産みだすのではない、儀式が物語を創りだすのだ。無数の驚きと発見に満ちた本書は、さしずめ人間の持ちうる想像力の博物館だ。2015/01/07
内島菫
24
「害悪の転移」という節で述べられている「全人類の蓄積された不幸と悪行が、ときとして死にゆく神に押しつけられる」ということと、最後の方に書かれている魂(個人の命の本体あるいはその死)を別のどこか安全な場所に隠しておけるという発想、つまり、空間的な広がりを持つ害悪であれ、一人の人間の内にあり時間的に継続する魂であれ、自由に移し替えられるとする世界各地にみられる考え方は興味深い。それは神の器を定期的に殺すことで神の本体を移し刷新するという風習とも一致する。2020/03/19
マーブル
14
未開人は死をもたらすことなく魂が身体から抜け出すことができると信じている。肉体が死んでも魂が無事であれば蘇ることができるのだ。そのような考え方の痕跡は神話や伝承、通過儀礼などに見ることができる。肉体を滅ぼそうとしても魂が肉体の中にないために不死身であるという魔法使いなど例がいくつも挙げられる。様々な障害を乗り越えなければ辿り着けない、人が訪れるのが困難な場所に、何かに封印され、あるいは猛獣や小動物の中に閉じ込められた魂。どこかで聞いたことがないだろうか。そう、あのヴォルデモートの分霊箱そのものではないか。2023/12/18
isao_key
11
下巻は上巻から続く「神殺し」と「金枝」及び補遺が収められている。中にアイヌの熊の祭り「イオマンテ」(熊送り)について詳細な記述があり興味深い。またビルマのある村ではコレラが流行ると強壮な男たちが家の屋根に攀じ登り、竹竿や薪の棒切れで屋根を打ちまくる。この間村人たちも皆で太鼓やラッパを鳴らし、騒音を立て3晩繰り返す。コレラの悪魔を追い払うのだという。ニューアイルランドでは娘たちは4,5年の間小さな檻に閉じ込められ、暗がりの中、地面に足を付けることも許されないというおぞましい風習があることが紹介されている。2015/04/30